日別アーカイブ: 2009 年 11 月 8 日

「ノルウェイの森」再読

バンド・クラシックス・ライブラリーの曲目解説も無事ブレーンに送付し、穏やかな気分で週末を過ごしています。今回の収録曲の目玉は、あなたにもあげたい組曲でしょうか。

先週から読んでいた村上春樹さんの「ノルウェイの森」を読了しました。こちらのブログエントリーのコメントにも書きましたが、この作品の冒頭は主人公が乗った飛行機がハンブルク空港に着陸する場面から始まります。読み返そうと思った理由は、単純にこの冒頭をハンブルクで読むのはどんな気分なのだろう、と思ったからです。まあ、このシーンは一瞬で終わるので別にどうということはありませんでしたが(笑)。そもそも、ハンブルクである必然性もそんなにないような気がしますし。

あと、この前読んだのがいつか全然覚えていないのですが、最初に読んだ時にはピンと来なかったので、それ以降いくつもの村上作品を読んだ後に、その印象がどのように変わるのかも興味がありました。

(以下、「ノルウェイの森」を未読で細かいストーリーを知りたくない方は読まないで下さい。)

(前にも書いたように思いますが)この時期、私は村上さんのファンだったので、「ノルウェイの森」は新聞広告で見て、書店に予約して買いました。その数年前に読んだ「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が圧倒的に素晴らしかったので、その延長を期待して読んだらちょっと期待はずれだったことを記憶しています。今ではよく言われることですが、これは村上さんが初めてリアリズム文体で書いた作品で、主人公にも初めて名前が与えられます。今になって思い返すと、たぶんそういう表層的な違和感によって、作品の細かいところまで踏み込めなかったのではないかと思っています。

さて、この小説のタイトルは「ノルウェイの森」で、もちろん、ビートルズのナンバーからの引用です。ビートルズファンには有名なトリヴィアですが、このタイトルは「Knowing she would」というフレーズを似たような語感を持つ「Norwegian Wood」に変えた、というのが定説になっています。if 節が省略された仮定法過去の用法で、しかも後に続く動詞も省略されているので、直訳すると「彼女が … だろうことを知っている」という意味ですが、以下の歌詞から、以下の内容を推測するのは容易です。

I once had a girl, or should I say, she once had me.
She showed me her room, isn’t it good, knowing she would?

かつて、僕がモノにした彼女がいて、いや、彼女が僕をモノにしたと言うべきかな
彼女が僕に部屋を見せてくれたんだ、やらせてくれそうだってわかるだろ?

(下世話な表現ですみません …)

やはり、村上春樹さんはこのことを知っていてこの作品に「ノルウェイの森」というタイトルをつけたのではないか、と私は思います。もちろん、「Knowing she would」は「Knowing she (= 直子) would (die)」(直子が死んでしまうことを知っていた)ということになります。

いや、久しぶりに読んでみると、ことのほか切ないです。全編を覆う静謐な雰囲気、その中にあって際立つ緑の明るさ、今になれば村上さんが意図的に(実験的に)こういう書き方をしたというのは知識として知っているのですが、それを知っていてもなお、この雰囲気にはのめりこんでしまいます。発売当時に読んだ時には、いままでの(羊3部作や「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」)小説とは全く異質な感触を抱いたのですが、これも今になってみれば、以降の作品で展開される「あちら側」と「こちら側」の世界が、この「ノルウェイの森」でもしっかりと描かれていることを再確認できました。

実はビートルズの《ノルウェイの森》には「This bird has flown(この鳥は飛んで行ってしまった)」という副題がついています。この「鳥」が直子なのだとしたら、ジョン・レノンは《ノルウェイの森》が収録された「Rubber Soul」の次のアルバム「Revolver」に収録されている《And You Bird Can Sing》の中でこんな風に歌っています。ここまで来ると、こじつけでしょうか(笑)?

And your bird is green.
そして、君の鳥は「緑」だ。