邦題について

ぼちぼち、吹奏楽コンクールの支部大会の情報が出てきているのでちまちまデータベースを更新しているが、ちょっと物申したい。

曲名の表記に限らず、外来語(日本語以外)のカナ表記は「基本的には原言語に忠実であるべき、ただしすでに一般的な慣習がある場合にはそれに従うべき。」というのが持論である。それから英題の邦訳についても「基本的には忠実に翻訳すべき。万人が納得するような意訳はかなりのセンスが問われる。独りよがりな副題はもってのほか。」が持論である。

ということで、おかしな表記あるいは邦訳が「慣習」として定着してしまうのはまずいと思うので、上の持論に基づいて意見したいと思う。

Les Couleurs Fauves

カレル・フサの作品。フランス語としての “Couleurs” を「クレール」と書くか「クルール」と書くかは趣味の域だと思うのでどちらでも構わないと思うが、”Les” は「ル」じゃなくて「レ」だし、”Fauves” は「フォーヴズ」ではなくて「フォーヴ」である。英語の複数形、例えば《Festival Variations》を《フェスティヴァル・ヴァリエーション》と表記するか《フェスティヴァル・ヴァリエーションズ》と表記するかという問題ではなくて、”Fauves” の最後の “s” はフランス語として発音してはいけないのである。

(わかりやすい例:Les Misérables は「レ・ミゼラブル」であり、決して「ル・ミゼラブルズ」ではない。)

なので、《ル・クルール・フォーヴズ》は《レ・クルール・フォーヴ(あるいはレ・クレール・フォーヴ)》と書くべき。

Sinfonia Festiva

アーン・ラニングの作品。いいかげん《交響的”祭り”》などという滑稽な訳は止めよう。Sinfonia Festiva が《交響的”祭り”》なら、マスカーニの《カヴァレリア・ルスティカーナ (Cavalleria Rusticana)》は《騎士道的 “田舎”》ですか?

“Festiva” は形容詞的に “Sinfonia” を修飾しているのだから、訳すのであれば《祝祭シンフォニア》あたりがいいのではないか。曲の構成からもこの作品が「交響曲」ではなく、単なる「合奏曲」であることは明らかなので、”Sinfonia” は「交響曲」とは訳さずに「シンフォニア」のままがいいと思う。まあ、原題をそのままカナ表記した《シンフォニア・フェスティーヴァ》で問題ないと思うが。

Passacaglia (Homage on B-A-C-H)

(これは誤訳とか表記が変とかといった問題ではなく、単なる意見の表明です。)

ロン・ネルソンの作品。まあ《パッサカリア》はパッサカリア以外に訳しようがないのであるが、副題に注目したい。この副題は「バッハに捧げる」とか「バッハに敬意を表して」などと訳されるが、少しトリックがある。

通常、「~に捧ぐ」とか「~に敬意を表して」とかを意味する英語は “Homage to ~” なのであるが、ここではおそらく意識的に “Homage on ~” とされている。

それから “B-A-C-H” も、かの大作曲家の人名をそのまま表す “Bach” ではなく、全て大文字しかもハイフンで区切られている。

この作品の持つ絶対音楽的な性格、つまり独自のパッサカリア主題にときおり “B-A-C-H” という音形を組み合わせたりバッハの作品を引用したりする作曲者の態度から、この副題は「バッハに敬意を表して」といういささか感情的なものよりも、作曲者が含ませた英語表記上の仕掛けを反映した「B-A-C-H によるオマージュ」の方がいいのではないかと思う。当然 “on” には「~による」という意味もある。ブラームスの 《ハイドンの主題による変奏曲 (Variations on a Theme by Haydn)》や、最近吹奏楽界では人気のラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲 (Rhapsody on a Theme of Paganini)》などに例を見ることができるだろう。

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これはもう茶々ですが …

なぜ《イーストコーストの風景》ではダメなのか?《東海岸の風景画》でなければだめなのか?じゃあ、《ウェストサイドストーリー》は《西側物語》?

 

1 thought on “邦題について

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