月別アーカイブ: 2004年9月

江口寿史さんのイラスト集

素顔~美少女のいる風景~ 江口寿史イラスト集

江口寿史さんの最新イラスト集。

このイラスト集の面白いところは、イラストのもとになっているスナップ写真が別冊としてついているところである。つまり、モデルの女の子を江口寿史さんがいかに「加工」したのかがわかるようになっている。実物そっくりだったり、実物の方がかわいかったり、全然別の顔として描かれていたり …..

江口さんは私にとってサブカルチャーの教師のような人である。私がまだ田舎の中学生だった頃、週刊少年ジャンプに連載されていた江口さんの「すすめ!パイレーツ」が好きだった。漫画とは関係ないところで挿入される当時の最先端のサブカルチャー的なアイテムが本編以上に私を刺激していたように思える。クラフトワークやYMOやトーキング・ヘッズの名前を最初に目にしたのはおそらくこの漫画だったと思う。

それ以降も、気がつけば新刊を買うようにしている。最近は漫画ではなくイラスト集の方が多いけど。

坂本龍一とルイ・ヴィトン

+33(坂本龍一)

ルイ・ヴィトンの創業150周年を記念して坂本龍一さんが書いたピアノ曲。9月2日に晴海で行われた創業150周年パーティーで配布された1曲のみ収録のCD。

単なる連弾なのか多重録音なのかよくわからないが、ミニマルっぽく断片を積み重ねていく曲である。聞きながら立花ハジメさんのソロ・アルバム「Hm」に収録されている《ピアノ・ピローズ・ゴーイング・アブストラクト》を思い出した。確か、この曲も坂本さんの作曲だったはず。

坂本さんの最近の仕事として六本木ヒルズのオープニングのために書かれた《ランド・ソング》などもあるが、あれはちょっと売れ線狙いかなという気がする。それと比較していい意味で力が抜けていると思う。ノベルティとして書かれたがゆえの開き直りというか、潔さが、いい具合にユーモアになっている。

 

オーディオの今と昔

依頼演奏のあと、NHK浜松支局で開催されていた「オーディオの今と昔」という展示会を見に行く。浜松オーディオクラブ主催で、持ち込まれた機材は全て会員の所有物だそうだ。(やっぱり会員じゃないかと思っていた知人談)

SPレコード、LPレコード、CD、SACDなどをいろいろな高級機で聞くことができた。やっぱりLPレコードの音はいい。サッチモの《ホワット・ア・ワンダフル・ワールド》のオリジナル・バージョンを聞いたのだが、恥ずかしい話、私はこの演奏にヴィブラフォンが使われているのを今まで気がつかなかった。非常につつましくはあるが、ちゃんとヴィブラフォンの残響が味わえるのである。

敬老会の依頼演奏

ふだん練習で使わせていただいている積志公民館からの依頼で、本日行われた敬老会の余興(笑)で演奏した。

定期演奏会直後でなかなか練習する時間が少なかったこと、祝日ということで仕事が入っている団員もいて演奏者が少なかったこと、など厳しい条件もあったが、演奏の出来もよかったし、聞きに来ている方々にも喜んでいただけたのではないかと思う。

懐かしい日本のメロディ(《椰子の実》《赤とんぼ》《朧月夜》《里の秋》)や、中村八大のヒット曲などを中心に演奏したのであるが、体を揺らしながらメロディに聞き入っていたおばあちゃんなどもいたようだ。

(何か気恥ずかしい表現になってしまうが)こういう場こそ、ただ演奏するだけではなく聞いている方一人一人の心に届く演奏をしなければいけないと感じる。

空軍バンドのリンカンシャー

SONGS OF THE EARTH/アメリカ空軍バンド (BOL-9706)

待望のアメリカ空軍バンドの自主制作CD。何度も競り負けていたCDでやっと落札することができた。

《リンカンシャーの花束》(グレインジャー)、《ウィリアム・バード組曲》(ジェイコブ)、《シンフォニック・ソングス》(R.R.ベネット)など渋めのオリジナル作品を中心とした選曲。

やはり目当ては空軍バンドが演奏する《リンカンシャー》である。木管群の弱音の音色に独特のソノリティを感じる。弱音でも陰に隠れることなくしっかりと自己主張しているので、それがこのバンド全体としてのサウンドにつながっているのではないか。第5楽章などアゴーギクで少し不自然な点を感じないわけではないが、全体としては極度にシャープにまとまった演奏である。レイニッシュによるRNCMウィンドオーケストラによる名盤(やはりこの演奏の《リンカンシャー》ベストの座は揺るがない)をさらにきつくフォーカスしたような演奏である。

第6楽章はRVWの《イギリス民謡組曲》でも使われている民謡《グリーン・ブッシュ》が延々と演奏される変奏曲なのであるが、旋律ではない副声部の特徴を際立たせることによって楽章全体のクライマックス感を生み出しているのが面白い。これは新しい発見。

あとは「I AM AN AMERICAN」(BOL-0104)を手に入れれば、アメリカ空軍バンド(吹奏楽編成)の自主制作盤はほとんど手に入れたことになるのではないかな(たぶん)?お持ちの方で余っている方はぜひお知らせください。こちらのダブリと交換しましょう。

 

楽器の中の聖と俗

浜松市楽器博物館で開催された講座「シリーズ:楽器の中の聖と俗」を聞きに行く。すでに何年も行われている講座なのであるが、昨年受講した妻の勧めで今年行われる3回分を申し込んだ。講師の西岡信雄さん(大阪音楽大学)のお話がなかなか面白いらしい。

今回のテーマは「南太平洋のコーラス」。東はタヒチ島、西はパプア・ニューギニアやオーストラリアのアボリジニあたりまでに伝わるコーラスが音声やビデオで紹介された。

大きな特徴は二つ。まずは打楽器以外の楽器はほとんど使われない。せいぜい使われても竹で作った笛(瓶笛というかパンフルートがでかくなったやつというか)くらいである。ニュージーランドのラグビーチームで有名になったボディドラミングや、木の切れ端を地面に打ちつけることによってビートを得る。もう一つは、そういった基本的には音程を持たない伴奏形態であるにも関わらず、コーラスはちゃんとハモっているのである。これは西洋音楽が伝わる前から独自に形成されていったものなのだそうだ。フレーズの最後はちゃんとした長三和音で収束しているものの、その途中は西洋音楽の純正率や平均率に当てはまらない独自の音程感があるようだ。(今の我々の耳からするとかなり気持ち悪い)

西岡先生の語り口も「関西のおっちゃん風ツッコミ」がなかなか面白い。学術的なことをわかりやすく説明するのと同時に、各地の文化の裏側にある「フィールドワークしなければわからないようなこと」もさりげなく笑いを取りながら紹介している。

(今回の講義ではないのだが、北島三郎さんの《兄弟仁義》でハバネラのリズムが使われているという話を聞いたときに、私は目からうろこが落ちた(笑)。)

ビーチ・ボーイズ

某 DISK UNION でビーチ・ボーイズの紙ジャケを限定販売していたので買ってみた。本日到着。

ペット・サウンズ

これはモノラル・ミックスだが、これから買おうとしている方はモノラル・ミックスとステレオ・ミックスが2種類入った輸入盤を買った方がいいと思う。私も「名盤」という評価に惹かれてこのアルバムを聞き始めたのであるが、ステレオ・ミックスの派手な音作りの方が曲のよさがわかるのではないかと思う。巷の意見では「聞けば聞くほどその良さがわかる」ということになっているが、私も賛成である。

スマイリー・スマイル

これは実はよく知らない。幻の名盤「スマイル」へつながる作品だとか、ポール・マッカートニーが「野菜を齧る音」で参加しているとか。

ミュージック・トゥモロー2004

金曜に録画しておいた「N響演奏会 ミュージック・トゥモロー2004」を見る。毎年、尾高賞受賞作品を披露するのにあわせて現代作品のみで構成された演奏会である。

とりあえずは、お目当ての望月京さんの《クラウド・ナイン》を見てみる。N響が望月さんへ委嘱した作品の世界初演。「クラウド・ナイン」というのはバックミンスター・フラーという建築家が提唱した球形の空間浮遊都市だとか。もっともスラングで「天にも昇る心地」という意味もあるらしいので、ウェブで検索すると精力増進剤などがよくヒットする。私が真っ先に思いついたのはジョージ・ハリソンのアルバム・タイトルだったのだが …

この作品はタケミツ・メモリアル・ホールでの演奏を前提にしたということで、ステージ上に小編成の管弦楽がおり、その他さまざまな楽器がステージを取り囲むように配置されている。ホールで聞けばさぞ面白かったのだろう。

長さはおよそ20分ほど。多少冗長に思える部分もあるのだがユニゾンを中心とする音色の作り方が面白い。特に冒頭のヴァイオリンのユニゾンが徐々に全体に波及していくあたりや、エンディングのかなり延々と同一音が点描的に演奏されるあたりが面白かった。

お買い物

久しぶりに雑誌「本の雑誌」を買う。村上春樹さんのロングインタビューが掲載された号を発見したため。最新号ではなくバックナンバーだったので「アフター・ダーク」については言及されていない。

本秀康さんの作品集「ハロー・グッドバイ」。タイトルはもちろんビートルズ・ナンバーから取られている。これも新しく出版されたものだと思ったら、3〜4年前に出たもののようだ。本さんは雑誌「レコード・コレクターズ」で連載されていた「レコスケくん」の作者。最近でもお気に入りのアーティスト(例えばジョージ・ハリソンとか野村よっちゃんが率いていたザ・グッバイとか)が特集されるときには不定期に登場している。アーティストに対する愛や深い見識からのコメントが面白い。

「レコスケくん」の中でレコガールに「おじいちゃんのお葬式でも泣かなかった私がこの曲を聴いて泣いちゃった」と語らせたジェシ・エド・デイヴィス「ウルル」所収の《マイ・キャプテン》。このエピソードは本さんご本人のものらしい。

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定期演奏会の打ち上げで「ドビュッシーやりてえ!」と叫んだような記憶がある。先日、突然ドビュッシーのピアノ曲《夢》の冒頭がかなり明確なイメージをもって意識の中に表れた。せっかくなので吹奏楽編曲してみようと思いピアノ譜を購入。

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NHKスペシャル「アシュケナージ 自由へのコンサート」を見る。

社会主義体制下で思想・表現を統制されていた作曲家や詩人の功績を再評価しようという試み。新しく知った事実はほとんどなかったが、自身がソ連からイギリスへ亡命した経験があるアシュケナージが語るという意味ではリアリティがある。エイゼンシュタインやプロコフィエフがまつわる「イワン雷帝」の話は面白かった。ショスタコーヴィチの《ベルリン陥落》《交響曲第13番「バビ・ヤール」》、プロコフィエフの《イワン雷帝 第1部》、シチェドリンの歌曲などが演奏される。

指揮者としてのアシュケナージはあまり好きではないのだが、今シーズンからデュトワの後を受けてNHK交響楽団の音楽監督となる彼がN響にどのような刺激を与えるのかは楽しみである。

「アフター・ダーク」読了

村上春樹さんの 「アフター・ダーク」 読了。

アフターダーク

描写されている世界観は「ねじまき鳥クロニクル」や「少年カフカ」あたりから顕著になっている「向こう側」と「こちら側」の話。とはいえ、この作品 はまた意図的に作風を変えた作品。完全に三人称で物語が語られている。その「向こう側」と「こちら側」の世界観が上記2作ではかなり具体的なイメージを 持って構築されていたのに対して、この作品では少し純化あるいは抽象化された形で提示されている。この作品を読んで、そういう世界観は実はすでに初期三部 作の完結編である「羊をめぐる冒険」あたりから語られているものであることに気がついた。そういう意味では、あるところまで進んでいった村上作品が、また 向きを変えて少し以前の作品に近づいた(もちろん、それは退行ではない)と思える。

作品としては含みを持たせたエンディング。解決されていないエピソードもあるが、それはあえて放り出しているのだろう。長さ的にも長編というには少しコンパクトであるし、この先にまた大きな作品が控えていそうで楽しみである。

村上春樹さんのお気に入りであるジャズがかかるバー(もちろんCDではなくLPをかけることが重要)や猫の集まる公園が登場するところも、少し今までの小説とは毛色が違うのかな。