日別アーカイブ: 2009 年 8 月 5 日

演奏会その4:ヤングスターズ―新しいドイツ

3週間に一度の、つらいつらい一日ミーティング。そのあと車で直接コンサート会場に向かいました。意外と会場近くに車を停めることができたのでラッキー。ちょっと腹ごしらえをするつもりで近くのタイ料理屋に入りました。(最近、小じゃれた店を避ける傾向にあるなあ …)いちばん軽そうなので麺を食べることにしました。メニューにスパゲティとあったので「これはイタリアのスパゲティ?それともタイヌードルのこと?」と聞いたら「イタリアのスパゲティにタイ風のソースをかけたもの」だそうで、ちょっと怖いので普通のタイ風焼きそばにしました。

IMG_0343IMG_0342

それでも量多過ぎ。しかも食べているとだんだん飽きてきます。途中で(タイの辛いペーストって何て言うんでしたっけ?)を追加してちょっとアクセントをつけました。

で、入場。つい、いつもの習性で CD を買ってしまいました。今日演奏するアンサンブル・アンテグラーレがアジアの作曲家の作品を集めて演奏した CD です。「望月京」の名前に反応してしまいました。

traces

Youngstars – Neues (aus) Deutschland
ensemble Intégrales
Hamburger Kammerspiele
20 Uhr

ハンブルクを中心に活動する「アンサンブル・アンテグラーレ」(綴りがフランス語っぽいからこれでいいんだよな?)の演奏会。ドイツ生まれの若手(といっても40歳過ぎた方もいましたが(笑))作曲家の作品を中心としたプログラムでした。会場の Kammerspiele は「室内劇場」とでも訳せばいいのでしょうか?小劇場というか映画のミニシアターというか、おそらくキャパは200~300人くらいの小さなスペースでした。

IMG_0340

ジョン・ケージ/ファイブ
John Cage / Five

ピアノと打楽器がステージ上に、クラリネット、サクソフォン、ヴァイオリンが客席を取り囲むように三方に位置するという配置。ピアノは内部奏法によってダルシマー(というかサントゥールというかツィンバロムというか)のような音を出し、それぞれの楽器は基本的に持続音を演奏します。打楽器も鍵盤楽器やゴングを弓で弾いていたような … 各楽器のアインザッツは指定されていない(開演前にちらっと楽譜を見たところ、大まかな時間のみが指定されていました)ので、それぞれの楽器の音の重なり具合(あるいは重ならなさ具合)の偶然性を聞く音楽です。ケージには「58 (Fifty Eight)」という58人の管楽器奏者のための作品(つまり吹奏楽作品)がありますが、アイデアとしては同じようなものですね。

マルコ・シシリアーニ/腐食〜アナログシンセサイザーとレーザーリアクターのための
Marko Ciciliani / Corrosion für analogen Synthesizer und Laserreflektor

レーザーリアクターというのは、ライブの演出などで使われている緑色の光線のアレです。それがアナログシンセサイザーの音と同期して動くという電子音楽作品。今の時代にあえてアナログシンセサイザーを使うのであればもっといろいろなことができそうな気がするのですが、電子音楽の黎明期、つまり40~50年前の作品と比較してもあまり面白みがないと思いました。

ステファン・ギュンター/アンティーク(NDR 委嘱作品)
Stefan Günther/ Die Antike (UA, Auftragswerk des NDR)

下にもいろいろ書いていますが、どうも私は音楽作品を構成からとらえるようで、この作品のように未知のソノリティを追求する方向に傾いている作品はどうも苦手です。

ヨハン・ザイデンシュティッカー/Ich bin ein Limes gegen Nichts(訳せません …)〜声、サクソフォン、打楽器、ピアノのための
Johann Seidensticker / Ich bin ein Limes gegen Nichts (UA)

上記の作品に比べると「普通の現代音楽」として聞けて面白かったですが、こういう編成だと、やはりシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》やブーレーズの《ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)》が頭に浮かびます。それらの印象を払拭するような衝撃はありませんでした。

カールハインツ・シュトックハウゼン/ナーセンフリューゲルタンツ(鼻翼の踊り)〜打楽器とシンセサイザーのための
Karlheinz Stockhausen / Nasenflügeltanz

聞いた限りでは、シンセサイザーは打楽器独奏の効果音のような使われ方をしていました。基本的には一人の打楽器奏者のための音楽。シュトックハウゼンの長大なオペラ(ワーグナーの《指環》より長い)《光》の中の一曲だそうです。打楽器奏者が途中で歌い出したり、演奏の合間には和太鼓奏者のように両手を上段にふりかざすジェスチャーがあったりと、パフォーマンス的な要素もありました。特徴的なリズムパターンが繰り返され、ある意味「秩序だった音楽」だったので面白く聞けました。

ここで休憩。

フェリックス・クービン/タイガー・マスク
Felix Kubin / Tiger Mask

今日の演奏会の中ではいちばんクレイジーな作品でした。「タイガー・マスク」は、あのプロレスラーのタイガー・マスク。ちなみにマンガのキャラクターではなくて新日本プロレスに所属していたタイガー・マスクです。ピアノと打楽器がいわゆる現代音楽っぽい楽想を演奏し、ライブエレクトロニクスを担当している作曲者がライブでそれらの音を加工しながらナレーターにキューを出します。ナレーターが演じるのはリング・アナウンサーと実況のアナウンサーと解説の桜井さん(笑)。ご丁寧にリング・アナウンサー用のマイクには軽くディストーションがかけてあります。この調子でタイガー・マスクの試合の様子を実況します。しかも2試合(笑)。日本人ですらこのナレーションだけで内容を理解できる人はそんなに多くないと思います。ゴールデンタイムにテレビでプロレスを見ていた世代ならわかると思いますが、ちなみに「おーっと!プランチャーだ!」と言われて絵が浮かびますか(笑)?いわんやドイツ人をや。案の定、隣に座っていたドイツ人に「今しゃべっていたのは日本語だと思うんだけど、これは意味のある言葉なのか?それともただの fantasy なのか?」と質問されました。

ちなみに作曲者のフェリックス・クービンは数年前にアルス・エレクトロニカでも演奏したことがあるそうです。

ブルノ・トレス-スネン/アウスリンゲン〜テナーサクソフォン、ピアノ、打楽器のための(NDR 委嘱作品)
Bruno Torres-Suñen / »ausklingen« (UA, Auftragswerk des NDR)

ザイデンシュティッカーの作品同様、他の作品と比較すると「普通の現代音楽作品」なのでほっとします。サクソフォンの旋律を軸にピアノ(またしても内部奏法)と打楽器が点描的にからむような作品。これもサクソフォンの旋律がだんだん複雑になり、それにつれて他の楽器も高揚していく、といった展開のわかりやすさが(私にとって)いいのかも知れません。ちなみに作曲者は17歳だそうです。年齢にしては作品に隙がなさすぎるような気がするので、将来がちょっと心配(笑)。

ブルクハルト・フリードリヒ /ミュージックボックス・プロジェクト III〜エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード、打楽器、CD、ライブエレクトロニクスのための
Burkhard Friedrich / the musicbox project III (UA)

今日の演奏会ではいちばん面白かった作品。エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード(何かよくわかりませんが音源モジュールのようなものも使っていたようです。カーテンコールで出てきた時にコードを足にひっかけて派手に転がしていました(笑))、各種パーカッション、それらを加工するライブエレクトロニクス、CD がどういう風に使われているかはよくわかりませんでした。ヴァイオリンが旋律的なものを演奏しますが、グリッサンドを多用した断片のような感じ。キーボードは時おりジャズ的なコードパターンのリフを演奏し、打楽器も時おりトニー・ウィリアムズのライド・シンバルを思わせるような早いリズムパターンを演奏します。これらと、エフェクトが付加された音が混沌と交錯するところがかっこいいです。最後は打楽器、ヴァイオリン、ピアノの順にステージを降り、誰もいなくなったステージの上でジャズ的なフレーズが繰り返されて、突然終わります。この人の CD も買っておけばよかったなあ。他の作品も聞いてみたいです。

作曲者の名前もほとんど知らない作品の演奏会というのもなかなかスリリングでしたが(そもそも、どうして聞きに行こうと思ったんだ?)、自分にとっての「玉」と「石」がちゃんと認識できた玉石混交状態で、平均すれば満足度は高かった演奏会でした。数年後に、また、これらの作曲家の名前が聞けるかどうか楽しみに待つことにしましょう(笑)。