日別アーカイブ: 2009 年 8 月 14 日

演奏会その5: アンサンブル・モデルン

フランクフルトを拠点として活動する現代音楽専門の演奏集団であるアンサンブル・モデルンの演奏会へ行ってきました。YMO 的には教授と alva noto のコラボレーションである「_utp」 を演奏した団体ですし、フランク・ザッパ的には遺作となった「The Yellow Shark」や、没後にリリースされた「グレッガリー・ペッカリー」を演奏した団体です。

この演奏会も7月上旬から8月末にかけて開催されている Schleswig-Holstein Music Festival (いつになってもこの長い名前を覚えられないなあ)の一環として開催されました。そもそもシュレースヴィヒ・ホルシュタインというのはキールを州都とする ドイツ最北部に位置する州です。ハンブルクは自由ハンザ都市として独立した自治体なので、どの州にも属してはいないのですが、北部をこのシュレースヴィ ヒ・ホルシュタインに取り囲まれているので、この音楽祭に参加しているのだと思われます。

会場は NDR(北ドイツ放送)のロルフ・リーバーマン・スタジオというところ。住宅地の真ん中に忽然と建っています。車を停めてから夕食をとろうと思ったのですが、近くにあまりお店がありません。少し歩いて、最初に目についたイタリアンのお店に入ることにしました。例によって「英語できますか?」と聞いたところ「No」とのこと。その代わりにイタリア語でメニューを説明してくれました(笑)。まあ、イタリア人が作っている(と思われる)のだからあらかじめ茹でたパスタを出すようなことはしないだろうし、細いパスタはあらかじめ作りおいておくわけない、という読みでカッペリーニ・ボロネーゼと、ミネラルウォーター(イタリア産のサン・ペレグリーノ。久しぶりだあ。)を注文しました。

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当たり。うまいです(例によって量は多いけど)。先輩駐在員に聞かされた話から、ドイツでパスタを食べる時には慎重になっていたのですが、今のところ外れはありません。

さて会場へ。オーケストラを録音するためのスタジオのようですが、ちゃんとした客席も用意されています。キャパは400〜500人くらいでしょうか?客席の角度が急なので天井はかなり高いです。逆に天井を高くしたから客席の角度を急にせざるをえなかったのかな?これで自然なアンビエンスは確保できるのだと思います。

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Hamburg
NDR, Rolf-Liebermann-Studio
Freitag  20 Uhr   K 90
€ 18,-

Festkonzert 20 Jahre Paul Hindemith-Preis und Preisverleihung 2009
Ensemble Modern
François-Xavier Roth Dirigent

Paul Hindemith / Kammermusik Nr. 1 mit Finale op. 24 Nr. 1
Márton Illés / Torso III. für Ensemble
Thomas Adès / Chamber Symphony for fifteen players op. 2
Michel van der Aa / Mask für Ensemble und Soundtrack
Johannes Maria Staud / Sydenham Music für Flöte, Viola und Harfe
Johannes Maria Staud / Incipit für Altposaune und fünf Instrumente

この音楽祭では「パウル・ヒンデミット賞」という若手の作曲家に対して送られる賞が設けられていて、今年はウィーン在住の作曲家ヨハネス・マリア・シュタウトが受賞しました。その受賞作品の披露コンサートです。賞が制定されてから今年がちょうど20回目だそうで、そのせいかどうかわかりませんが、過去の受賞者による作品ばかりが演奏されました。(もちろんヒンデミットは別枠ですが。)

ヒンデミットの室内音楽第1番はけっこう好きな作品で、アッバード/ベルリンフィルの演奏をよく聞いているのですが、それと比べるとかなり早めのテンポでした。切れ味はいいんだけど、ちょっと荒くなってしまったかな。第3楽章「四重奏曲」は木管楽器(フルート、クラリネット、ファゴット)と打楽器が絡む楽章。ほとんど指揮なしでアンサンブルしていました。

マールトン・イッレーシュ(ハンガリー)は昨年度のヒンデミット賞受賞者。すでにかなりの経歴の持ち主のようです。今回の演奏会では、この《トルソ III》がいちばん面白かったかなあ?細かい音符の堆積によって構成されているような音楽で、その疎密の遷移の具合が面白い作品でした。例えば固体が結晶化していく様子を、順回転で再生したり、逆回しで再生したり、あるいは再生スピードを変えてみたり、といったイメージが頭に浮かびました。ある楽器のモチーフをきっかけに音符の堆積がアンサンブル全体に広がっていったり、あるいはその逆に密集しているミクロな音の固まりがだんだん拡散していくような感じです。

トーマス・アデス(イギリス、この人だけは名前を知っていました)は2001年度の受賞者。

ミシェル・ファン・デル・アー(オランダ)は2006年度の受賞者。

最後にヒンデミット賞の授賞式(ちなみに賞金は20000ユーロだそうです。)をはさんで、受賞者ヨハネス・マリア・シュタウトの2作品が演奏されました。《シデナム・ミュージック》はフルート、ヴィオラ、ハープのための音楽。これも面白かったです。この編成での音楽というと、ドビュッシーや武満徹などの作品の柔和なソノリティがイメージされるのですが、それらとは逆に各楽器の音色を際立たせて対比させている気がしました。ハープは平均律ではない調律がされていたのかな?それからハープのチョーキング(?)は初めて見ました。弦を弾いたあとにテンションを変えて音程を変えていました。

おそらく、今日演奏された作品や作曲家がコンテンポラリーな音楽の主流ということなのだと思うのですが、少なくとも私の耳には、それらの作品の方向性があまりにも似過ぎていることが気にかかりました。前回行った演奏会の「何でもあり」に比べると、演奏会自体や聞きに来ているお客さんがオーセンティックだったのかな。

それにしてもアンサンブル・モデルンの演奏能力はすごい。例えばフルートの重音奏法やウィスパートーン、オーボエのフラッターなどの特殊奏法が何の違和感もなく聞こえますし、トランペットのすさまじい跳躍や細かいパッセージ(しかも木管楽器とのユニゾン)なども安定していました。楽器間のバランスとしてホルンやトロンボーンが控えめに聞こえたのは私が座った席の問題なのかな?