日別アーカイブ: 2010 年 3 月 10 日

演奏会その35: ハンブルク歌劇場「女たちの三部作」

Arnold Schönberg “Erwartung” Op.17
Oscar Strasnoy “Le Bal”
Wolfgang Rihm “Das Gehege”

久しぶりのハンブルク歌劇場です。

アルノルト・シェーンベルクのモノドラマ《期待》、ハンブルク歌劇場の委嘱作品であるオスカー・ストラスノイの《舞踏会》、ヴォルフガング・リームのこれまたモノドラマ《檻》という、女性を主人公とした3つのオペラが一挙に上演されました。アルゼンチン生まれのフランス人作曲家オスカー・ストラスノイ(1970年生まれ)に委嘱した作品にあわせて、20世紀のオペラ2作を上演する、といった形です。

《期待》と《檻》は「モノドラマ」というだけあって登場人物は一人だけです。今回の上演では演出の関係で歌わない登場人物も何人か舞台に登場しますが、歌うのは主人公の女性だけです。しかし、どちらも夢見が悪くなりそうな題材です。事前にあまり予習できなかったので歌劇場でもらった英語のあらすじを読んだり、表示される字幕(どちらもドイツ語のオペラですがドイツ語の字幕も出ます)をかろうじて追いかけたりしただけですが …

《期待》は、ある女性が自分が殺してしまった恋人に語りかけるというモノローグ。舞台は病院の個室なので錯乱した状態での妄想ととらえることもできるようです。それから、《檻》は、檻の中に住む鷹を挑発して最後には殺してしまうという話。今回の演出では鷹が象徴するものとして男性(当然セリフはありません)が登場します。

実はシェーンベルクの大編成の管弦楽作品はちょっと苦手で、手持ちの《期待》の音源を聞いていてもあまりピンと来ませんでした。でも実演で聞くと細かい音色の操作がわかったりして多少は面白く聞けました。ヴォルフガング・リーム(1952 – )の作品をちゃんと聞くのは初めてのような気がしますが、シェーンベルクのオーケストレーションの新しさに比べると、作品全体の印象としては伝統的というか重厚な感じがします。まあ、シェーンベルクもリームも、いわゆる「表現主義」的な作品の範疇に入ると思うので、いきなりのフォルティシモや歌手の叫び声などがあるわけで、気分的にはとても疲れますね。歌唱は、表現力については(本当に怖かった)《期待》の、声の豊かさについては《檻》の、がよかったです。

《舞踏会》はアウシュヴィッツで殺されたユダヤ人女流作家イレーヌ・ネミロフスキーの同名小説を原作にしたオペラ。出版直後の1931年に早くも映画化されました。主人公は株で成功した(いわゆる成金)カンプ家の娘アントアネット。家が裕福になって居場所がなくなったアントアネットは、両親から託された舞踏会の招待状を投函する気になれず、郵便局へ行く途中で川に捨ててしまいます。それを知らずに豪勢な用意をして客を迎える準備をする両親 … といったストーリーです。近代/現代のオペラというと上記の《期待》や《檻》のように人間の精神を深くえぐった、ある意味ドロドロした題材が多いように思う(のは偏見?)のですが、この《舞踏会》は比較的コミカルな雰囲気でそういったプチブルジョアを揶揄しているように思えます。

最後、壮絶な「ブーイング」対「ブラヴォー」の応酬がありました。ブーイングは歌手やオーケストラではなく指揮者のシモーネ・ヤングへのものだったと思います。ブーイングがあったのが第3部にあたる《檻》の前から始まったので、何に対するブーイングだったのかよく理解ませんでしたし、そもそもブーイングしているのは一人だけだったような気がするのですが。