今週末は「上海フェスティヴァル」ということで中国文化に関するさまざまなイヴェントが開催されています。
そんな中からハンブルク交響楽団による「上海フェスティヴァルコンサート」を聞きに行きました。
Großes Symphoniekonzert Shanghai
Samtag 13.2.2010 / 19:00 / Laeiszhalle / Großer Saal
Concert Promotors: Hamburger Symphoniker
Mengla Huang Violine
David Cossin Schlagzeug
Hamburger Symphoniker
Dirigent Muhai Tang
Musheng Chen: »Ein Traum im Päonien Garten« für Kunqu-Sänger und Orchester
Chen Gang, He Zhanhao: »Butterfly Lovers« Violinkonzert
Tan Dun: »Water Concerto« für Wasser-Schlagzeug und Orchester (Hamburger Erstaufführung)
1曲目は1971年生まれの陳牧聲(チェン・ムシェン)の《ぼたん園での夢》。作曲者が教鞭を執っている上海音楽学院の創立80周年を記念して2007年に作曲されました。この作品はいくつかヴァージョンがあって、今日演奏されたのは京劇歌手と管弦楽のためのヴァージョン。ステージ上手奥にファルセットでヴォカリーズを歌う男性歌手、ステージ下手奥に京劇のパントマイムを踊る女性が位置しました。まあ、正直言って歌手も踊り手もいてもいなくても差し支えないように思いましたが …
作品は、まあ普通にイメージされる「中国風の現代音楽」という感じでしょうか。いかにも中国を思わせるペンタトニックの息の長い旋律にのせて、ときどき多種多彩な打楽器がドコドコと鳴らされる、といった感じで曲が進行します。その息の長い旋律のオーケストレーションが個性的かなと思いました。あまり厚ぼったくならずにすっきりしていて。時々、笙のような響きが聞こえて、弦のスル・ポンティチェロとかオーボエの高音を使っているのかな、と思ったら、編成の中にアコーディオンがいました。見た目は浮いてしまいますが(笑)、音としては効果的に使われていたと思います。
陳剛(チェン・ガン)と何占豪(かせんごう)の共作によるヴァイオリン協奏曲《梁山伯と祝英台》。1958年に作曲された作品で、作曲者2人は当時上海音楽学院の学生でした。中国では有名な民話を題材にした京劇の旋律を借用しています。おそらく、中国人が作曲したクラシックの作品としては初期のものだと思います。日本でもそうでしたが、非西洋民族という立場で西洋音楽を作曲する時には、それ以前から自分たちの文化が持っていた音楽との融合を図るのですね。音楽的にもともとの民話のストーリーを追っているようなのですが、そのあたりは知識がないのでまったくわかりませんでした。オーケストレーションなどは非常に古典的で、非常におおらかな雰囲気の音がします。
アンコールで出てきたヴァイオリン独奏者の演奏は、よくわかりませんが超絶技巧でした。ある弦の上で旋律を弾きながら別の弦の上でピチカートで伴奏したり、アルペジオのようなボウイングでピチカートのような音を出したり(非常に素早く「ポツポツポツポツ」という音がするのですが、あれどうやって演奏しているんでしょう?)。もともとそういう曲があるんでしょうか?
休憩後は譚盾(タン・ドゥン)の《水の協奏曲》(ハンブルク初演)。基本的には打楽器協奏曲なのですが、独奏者の前には水を張った大きなボウルがあり、これを使っていろいろな音を出します。水を使った楽器というとアクアフォンとかウォーターゴングとかがありますが、これ以外にも水の表面を手で叩いてビートを出したり、ボウルの中にウッドブロックを入れて叩いたり、ウォーターディジュリドゥとでもいいましょうか、太いパイプを叩きながら水に出し入れすることでピッチを変えたり、などなどをやります。
演奏はステージ上の照明を少し落とした状態で行われるのですが、独奏者が使うボウルは透明で下から照明が当てられているので、水が波立つことによって天井に映る光も揺れるような仕掛けになっています … が、ライスハレの天井はかなり高いのであまり効果的ではなかったかも知れません。
ということで、視覚的効果の強い(悪く言ってしまうとこけおどし的な)作品だと思います。これを聞きながらいろいろなことを考えました。
こういう、視覚的な効果を積極的に取り入れた作品というのはある意味非常に今日的(同時代的)であると言えると思うのですが、その反面CDやDVDなどの複製媒体による作品の流布(あるいは演奏の流布)までを念頭に入れなければいけない(もちろんそれが全てではありませんが)今日の「クラシック業界」に対するアンチテーゼであるようにも思います。(まあ、この作品はDVDでもリリースされているようですが …)
また、こういうエンタテインメント性が必ずしも数百年も連綿と続くクラシック音楽(西洋音楽)の延長線上にあるとは限らない(ある意味での「クラシック音楽」ではない)と考え方もある一方で、タン・ドゥンという作曲家が個人としての作曲語法を拡張するために意図的にこういう方向を選択した、という考え方もできるわけで …
基本的にはとても楽しめた作品だったのですが、それを捉えようとした時に上に書いたようなアンビヴァレントな考えが次々にわいてきてしまったのでした。
演奏については、打楽器がソロということもあってかタン・ドゥン特有のメリスマのきいた旋律は控えめで、オーケストラも比較的パーカッシヴな音を出します。(余談ですが、最初の方で弦楽器が演奏したモチーフは去年聞いた《チェロ協奏曲》でも使われていたような気がします)で、微妙にオーケストラと独奏者の間の細かいリズムのノリがずれていたような気がします。ちょっと残念だったかな。
指揮者の汤沐海(タン・ムハイ)は初めて聞きましたが、ヨーロッパではかなり活躍しているようです。ちょっと裏拍の点を出しすぎるきらいはありましたが(慎重派?)、大振りしないコンパクトな指揮、的確なキューがよかったです。ふだんはインテンポに留意して振り、アインザッツが必要なところはしっかりキューを出す、といった感じです。ステージ上でのコンサートマスターとのやりとりを見てもオーケストラとのコミュニケーションがうまくいったことがわかりました。
アンコール。指揮者の「上海は今お正月なので …」というMCから《何とか序曲》(詳細不明)が演奏されました。旋律が中国風と言えば言えなくもない感じです。
やはりこういうプログラムだとお客さんは少なかった(言わずもがなですが普段よりアジア系の聴衆は多いです)のですが、演奏後の拍手やブラヴォーはとても多かったです。演奏もよかったし、指揮者が醸し出す演奏会全体の雰囲気もよかったのかな?とても後味のよい演奏会でした。