ビフォア・アフター・ダーク

新作 「アフター・ダーク」 の発売が間近ということで、にわかに村上春樹さんの周辺が慌しくなっている。氏はなかなかインタビューを受けないことで有名なのであるが、 「PAPER SKY」 という雑誌の最新号(Vol.10)にインタビューが載っているということを聞いたので購入してみることにした。そういえば、ずっと前に買った 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」 はまだ読んでいないんだっけ …

村上作品との出会いは高校2年のときだったと思う。何もすることがない夏休みを過ごしていたら、友人が薦めてくれた。その頃は、まだ「風の歌を聴け」や「1973年のピンボール」くらいしか文庫化されていなかったので、とりあえずその2冊を読んでみた。

当時の印象はそれほどいいものではなかった。どうも、主人公である「僕」の物の見方にホールデン・コールフィールドに近いものを感じて(今になって読み返してみるとまったくそんなことはないのであるが)、何かサリンジャーを意識しているようで素直に入り込めなかったような気がする。

で、大学に入ってこれまた暇を持て余していて、その頃に出版されたのが「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」。村上春樹メーリングリストでのやり取りを見ていると、この作品をベストに推す人が多い。私も同感である。村上作品の中ではこの作品がいちばん好きだ。ご存知の方も多いだろうが、この作品は「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という2つの物語が同時進行する。この「世界の終わり」の世界観が、オールドファンが共感する「村上春樹の世界」をもっとも端的に表しているのだと思う。この作品ではまり込んでしまい、その後は新作が出るたびに購入している。

だから「ノルウェイの森」も予約をして発売日に買った(のはちょっと自慢)。この作品も実は最初に読んだときは、それまでの村上作品とは違うリアリズムを指向した文体に違和感を覚えて、さほど感動しなかった覚えがある。今から考えると、この作品は近作である「ねじまき鳥クロニクル」や「少年カフカ」で確立された作風に向かって、確実にハンドルを切った作品なのだと思う。最近の確固たる作風に入ってからの作品では、確かに根底にしっかりとした思想が横たわっていることがわかるのであるが、以前の作品、例えば上記の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」や短編集「回転木馬のデッドヒート」に見られるような不安定さに共感を覚える私にとっては、少し距離が開いてしまった作家である。まあ、相変わらず好きな作家であることには変わりないのであるが。

作家デビュー25周年を記念して「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」の文庫本がオリジナル装丁で再発売されるらしい。このへんの発想は昨今の紙ジャケブームに似ていなくもない。リマスタリングされているとかボーナストラックがついているとかということはないと思うが。

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ついでに購入した 「天使と悪魔」 も到着。「ダビンチ・コード」に先立つダン・ブラウンの日本デビュー作。

しかし、こんな日にアマゾンからの小荷物を受け取ると、はたからは「ハリー・ポッター」の新作を買ったように見られるのかも知れない(笑)。

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