フィンランド・エストニア日記(その3)

朝7:00起床。早々にホテルをチェックアウトして、8:00出発のヴァイキング・ラインでヘルシンキまで帰ります。船内のレストランでビュッフェスタイルの朝食を。(我々だけではありませんが)8:00 からだらだら食べて飲んで閉店時刻の 10:00 までレストランの中でうだうだしていました。(我々だけではありませんが)さすがに「閉店なので出て行ってくれ」と言われ、そのあとはフリースペースでまたうだうだ。そうこうしているうちに10:30くらいにヘルシンキに到着しました。

まずはフィンランド国立博物館へ行ってみました。フィンランドの国自体を知るためのいろいろな展示があったのですが、前提として国の歴史を知っていないとちょっと苦しいかも知れません。

その後、14:00からのシベリウス音楽学院内でのコンサートを聞きに行きました。とは言ってもクラスの発表会のようなもの。ごく内輪の発表会で聴衆は10人くらい。時間の関係で最初の2人だけ聞きました。なお、コンサートが行われたのはシベリウス音楽学院の本館ではなくて、レッスン用の建物のようでした。

二人ともバッハの《前奏曲とフーガ》(というか平均率クラヴィーア曲集)、それからベートーヴェンのピアノソナタを弾きます。これらは課題曲のような位置付けで先生から課せられたのではないかと推測されます。

最後の演目が「自由曲」ということになるのでしょうか、一人目はシューマンの《ピアノ協奏曲》(まあ、どうでもいい話ですが、ウルトラセブン最終回の名場面、モロボシダンが「僕はウルトラセブンなんだ!」と告白する場面で使われています。)オーケストラパートは友人(かな?)に弾いてもらって、二重奏の形で演奏されました。

二人目の自由曲はリゲティのピアノ練習曲集からの2曲。初めて聞きましたが面白い曲です。

そのあとはアパートに戻って帰るための荷物の用意。それからタクシーを呼んでもらってヘルシンキのヴァンター空港まで。あ、今さらですがアパートのある通りはこんな感じです。1ブロックの端から端まで続く大きなアパートが特徴なのだそうです。

Davidとはアパートの玄関で別れました。そういえばDavidは奥ゆかしいというかシャイというか、自分からは決して握手する手を差し出さないことをタクシーの中で思い出しました。以前、別れる時に「ちゃんと握手すればよかったなあ」と思ったのですが、またもや同じことを繰り返してしまいました。前回は次にいつ会えるのかわからないような状況だったので非常に後悔したのですが、今回はお互いに世界中のどこにいても簡単に会えそうな気がしたので、それほど大きな後悔はありませんでした。

空港でチェックインして搭乗口の待ち合いスペースの椅子に座ったとたんにどっと疲れが出て、体全体が一気にだるくなりました。今まで寒い中を歩き回っていたので体が緊張していたのかも知れません。

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今回の旅行で村上春樹さんの「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読了。(そういえばこの本を前回読んだのはサンフランシスコへの出張の道中だったような気がします)寒い世界で「世界の終わり」の方を読んでいるとかなり「あの世界」にひたれます。この作品、今まではラストが非常に切ないものだと思っていたのですが、今回読み直して実はハッピーエンドという考え方もできるのかなあ、とふと思いました。

以前、「ノルウェイの森」の冒頭にハンブルク空港への着陸シーンが出てくるとご紹介しましたが、この小説ではフランクフルトの観光ポスターが出てきたり、主人公がルフトハンザ航空の袋を持ってコインランドリーへ行ったり、登場人物の一人(「ハードボイルド・ワンダーランド」の博士)がフィンランドに行ってしまう設定になっていたりと、微妙なシンクロニシティを楽しめました。と、書きながら思い出したのですが、短編集「回転木馬のデッドヒート」の中に「レーダーホーゼン」という短編が収められています。レーダーホーゼンというのはドイツ人が履いている半ズボンのことで、登場人物がドイツ旅行中にレーダーホーゼンを作ろうとして … というストーリーになっています。村上春樹さん、実はドイツ好き?

フィンランド・エストニア日記(その2)&演奏会その32: アルヴォ・ペルト作品展

事前に David と電話で会話したときに「ヘルシンキからエストニアのタリンまで行く航路があるので、それでタリンに行くのも面白いかもね。」という提案を受けました。友人が訪ねてきた時に使う典型的な観光コースなのだとか。もともと、いわゆる旧ソ連に属していた国に対して、文化的な違いとか生活習慣の違いとかについて漠然とした興味を持っていたので、願ったりかなったりです。

昨日に引き続き、気温はマイナス20℃前後。David も「ヘルシンキに来てから、こんなに寒いのは初めてだ。」とか言っています。ただ、今日は特別なのかもしれませんがハンブルクに比べてさわやかに晴れ渡っています。ハンブルクの冬にこんな明るい日差しを見るチャンスはそうそうありません。

本当は街中を観光しながら港まで行って船に乗る予定だったのですが、昨晩のように寒さが半端ではありません。まずは地下鉄でヘルシンキ大聖堂を見に行きました。この大聖堂から船が出る港まで比較的近いので徒歩で。11:30発の船でタリンへ。

港から外海へ出るところにあるスオメンリンナの要塞群。世界遺産にも登録されていて、島全体が要塞のようになっています。

この季節なので当然海は凍りついているわけで、このように流氷をかきわけて船が進んで行きます。

ヘルシンキからタリンまでは約60km、船はそこを2時間30分ほどかけて進みます。エストニアはフィンランド湾をはさんでフィンランドと向かい合った国で、北はフィンランド湾、西はバルト海に面していて、東はロシアと、南はラトビアと国境を接しています。国の面積は九州より少し大きいくらいで、そこに130万人の人が暮らしているということです。言語はエストニア語(というのがあるんですよ)。文字列を見る限りフィンランド語に似ている感じがします。

というわけで午後2時頃にタリン到着。ヘルシンキより少しはましかな、というくらいの寒さです。船の中でだらだら食べたり飲んだりしていたので、お腹はあまり空いていません。とりあえず旧市街まで歩いてみることにしました。

遅めの昼食はエストニア名物らしいパンケーキのお店へ(そういえばシアトルでDavidにパンケーキをおごってもらったなあ)。ブルーベリーとクリームチーズが入った「甘系」と、ハムとチーズが入った「しょっぱ系」をシェアしました。

夕方になって(写真を撮り忘れてしまいましたが)聖ニコラス教会へ。ここには15世紀の画家バーント(ベルント)・ノトケが書いた「死の舞踏」があります。貴族と骸骨が並んで踊っているという不気味な絵です。この「死の舞踏」を題材にした絵はたくさんあるので、以前に本で見た絵がこれなのかどうかわかりませんが、とにかくこの手の宗教画は見た記憶がありました。

教会の中では何かコンサートのリハーサルが始まるような気配があったので、近くにいた女性にいた尋ねてみると午後7時からアルヴォ・ペルトの作品を集めたコンサートが行われるとのこと。チケットを尋ねてみるとここには1枚しかないとのこと。「エストニアの教会でペルトの作品を聞ける機会なんてなかなかないんだから聞きに行った方がいいよ」(ペルトはエストニア生まれの作曲家です)と David に言われ、ありがたくそのチケットを入手することにしました。彼はタリン在住の友人と時間を潰すということなので、コンサートが終わった後に連絡するということで別れました。

というわけで当日のプログラムですが … エストニア語です … 曲目はかろうじてドイツ語、ラテン語、英語などで書かれていますが …

  • 巡礼の歌(Ein Wallfahrtslied)
  • 来たれ、創造主よ(Veni creator)
  • 聖なる母よ(Most Holy Mother)
  • 交響曲第4番《ロサンゼルス》(エストニア初演)
  • 主よ、平和を与えたまえ(Da pacem Domine)

3曲目がアカペラ、4曲目がオーケストラのみ、それ以外の作品は合唱とオーケストラのためのための作品です。タイトルでわかるようにほとんどが宗教的な題材による作品で、最初の曲の演奏が始まってから最後の曲が終わるまで、曲間で一切拍手はありませんでした。なので、途中までどれがどの曲かわかりませんでした …

実はペルトというと、その作風は何となく想像できるのですが、実際によく聞いていたのは20年くらい前に購入した以下のCDでした。このCDには極度に抑制された編成や、中世音楽のスタイルを模した作風など、ストイックな作品が収められていてとても気に入っています。

Arvo Pärt: Arbos

この演奏会で取り上げられた作品は21世紀に入ってから作曲/改訂された作品が多く、上記のCDに収録されている作品に比べるとモダンな手法が取り入れられているというか、中世的な響きと現代的な響きが混在するような作品が多かったように思えます。上記のCDに収められている作品が好きな私にとって、こういう作風は中庸的というかペルトの持つ個性が薄められてしまっているのかなあ、と感じました。

ただ、交響曲第4番《サンフランシスコ》は、ペルトのいわゆる「前衛時代」に書かれた3曲の交響曲から実に40年近い時間を経て作曲されたという意味で興味があります。繰り返し聞くと印象が変わるのかも知れません。

あ、会場にはペルトも来ていました。

コンサートのあとで David と再び落ち合い、近くのホテルのバーでちびちびとお酒を。紹興酒のような飲み口のタリンのお酒と、エストニアのローカルビールである「SAKU」を飲みました。「タリンのように1000年近くも風景が変わらない街にいると、ペルトのように古い時代のまま時が止まったような音楽を書く気持ちがわかるような気がするね。」みたいな話をしながら。

フィンランド・エストニア日記(その1)

というわけでヘルシンキ在住の友人に会うための小旅行です。

多少のマイル修業のため、わざわざフランクフルト経由でヘルシンキへ。小腹が空いたのでフランクフルトの乗り継ぎで軽く食べたのですが …

フランクフルト→ヘルシンキ便で機内食が出ました。国際線だから?ちなみにグヤーシュです。

さて、私はほぼ定刻である午後6時ちょっと前に到着したのですが、オスロから David が乗ってくる飛行機が遅れているとのこと。結局到着したのは午後8時頃でした。

それからタクシーで彼のアパートへ行き、とりあえず荷物を置いて夕食を食べに行こうということになりました。私は厚手のセーターとマフラーと手袋を用意していったのですが「寒いから帽子もかぶっていた方がいいよ」とのこと。「帽子が似合わない男選手権」静岡県大会で第3位になった私なので、あまり気が進まず「大丈夫だと思うけど …」と言ってとりあえずやんわりと断ったのですが、「絶対必要だから」ということで強く勧められたので貸してもらったキャップをかぶって外に出ました。

はい。帽子は必須です。後で聞いたら外気温はマイナス20℃くらいだったそうです。特に浜松近辺に住んでいる方はマイナス20℃の世界はあまり体験したことがないと思いますが、こんな感じになります。(実はその昔お菓子屋さんでバイトしたことがあって、その時にマイナス30℃の冷凍庫に入ったことがあるのですが、同じような感じでした。)

  1. 顔が動かない。「寒い」と言うのもかったるくなります。キャップを目深にかぶって首に巻いたマフラーを口のあたりまで上げているのですが、やはりほっぺたや鼻の辺りは露出しているわけで、本当にこのあたりが動かなくなります。
  2. 息の滞空時間が長い。寒い時に「はー」っとやると息が白くなりますが、この白い息がしばらく消えません。何か顔のまわりにまとわりつくような感じでしばらく漂っているような感じです。
  3. 鼻の穴のまわりがチクチクする。半ば霜がついたような感じになるのでしょうか、鼻をすすると鼻の穴のまわりがチクチクします。痛くはないのですが。

というわけで、一応カメラは持って行ったのですが、カメラを取り出して撮影するだけの気力が出ません。ですので、この日は写真がありません。ご了承下さい。

まずは、アパートの近くにあるテンペリアウキオ教会へ。この教会は岩をくり抜いて作られたことでとても有名です。中ではコンサートをやっていますが、もう終盤だったためか、勝手に客席に入って聞くことができました。メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲を10分ばかり聞きましたが、やはり室内楽を聞くには少し残響が多過ぎるかなと思いました。もう少し早く来ることができればフォーレの《レクイエム》などを聞くことができたのですが。

その後、近所のロシア料理屋へ。体を中から暖めないといけないということでまずはトロトロに冷やしたウォッカと、メインはビーフストロガノフを。そういえばハンブルクでは今のところロシア料理屋を見かけていません。(余談。後日、会社での食事時に「昔ドイツとロシアは仲が悪かったからドイツにはロシア料理屋がないって聞いたんだけど …」と話を振ってみたら「そもそも、ロシアは誰とも仲悪いんじゃないの?」と返されてしまいました。)

電話会議など

今日は日中にかなり気温が上がったようで、退社時には、いわゆる「雪がゆるんだ」状態になっていました。これで、また夜中に冷え込むとつるつるに凍結しそうでちょっと怖いのですが …

夏と冬の日照時間の差が大きいだけに、この時期は日ごとに日照時間が長くなっているのを感じます。ちょっと前は朝8時といっても車のヘッドライトをつけないと走れないくらいの暗さだったのですが、最近は朝8時だと完全に夜が明けています。

朝からアメリカとオーストラリアと電話会議。そういえばドイツに来てから日本以外と電話会議をするのは初めてかも知れません。回線状態が悪かったり、オージー・イングリッシュが聞き取りにくかったりと非常に神経を使います。画像があれば話の流れとか、誰が話しているのか、とかで議論の流れはつかみやすいのですが、電話だと声だけですし、複数が参加しての電話会議だと誰がどういう文脈で割り込んでくるのかわからないので、本当に大変です。まあ、慣れれば何とかなるのかなあ …

なんかルフトハンザのパイロットが週明け(2月22日〜25日)にストライキを予定しているそうですが、私のフライトはギリギリ大丈夫そうです。というわけで明日からフィンランドへ行ってきます。

いつもの Asia Lam

昼間は久しぶりに眩しいくらいの日差しだったのですが、夜はさすがに冷え込んでいます。

今日は恒例の3週間に一度のミーティング。まあ、こんなもんかな。

夕食は「Asia Lam」へ。例の新メニューが食べられるかと期待して行ったのですが、残念ながら「今日はなし」とのこと。

そんなこともあろうかと思って、あらかじめ想定していたお気に入りのNo.53「タイ風つけ麺 春巻と牛肉のオイスターソース炒めのせ」を注文しました。お店に入った時に「今日は寒いね(Heute, kalt)」みたいな話をしたからか、野菜スープをサービスしてもらいました。いわゆる「白湯」のようなすっきりしたスープで、キュウリやらパイナップルやら細長く切った大根かなあ?冬瓜かなあ?やらが入っているのがアジア風です。さっぱりしておいしいです。

No.53 は、つけ汁に入っている唐辛子がいつもより細かいなあ、と思っていたら、案の定かなりスパイシーでした。特にこの時期は唇も乾燥しているので、かなりひりひりします。

musicbox-project

昼食は Yvan と。何か Yvan と食事をする時には重い話が多いのですが、今日は「先日、広島に原爆が落とされたドキュメンタリーをテレビで見た」という話題でした。「結局、日本とアメリカの間のミスコミュニケーションがああいう結果になってしまったんだよね。」とか。また、戦後の広島を舞台にした「ヒロシマ・モナムール」というフランス映画があるらしくて(タイトルだけ聞いたことがあるなあ)、それが面白いということを紹介してくれました。

そのあたりの話から学校で習う世界史の話になり、そこから東西ドイツ統一の話に。それ以前から東西ドイツ統一の話はあったらしいのですが、他のヨーロッパ諸国にとってはドイツがパワーを持ちすぎるとか、東側の国と統合されることで想定外の事が起きやしないかとか、という点で懸念を持っていたこと、ベルリンの壁崩壊自体が想定外の出来事だったこと、など当時の状況を教えてもらいました。

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今日は Dave と Artur のバースデイ。というか正確には Dave の誕生日は先週の土曜日だったらしいのですが、Artur と一緒にパーティーをするために今日に設定したのだそうです。用意されたケーキは 9 ホール。3 ピースほどいただきました。

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帰宅したら届いていたもの。

ハンブルク在住の作曲家ブルクハルト・フリードリヒの CD です。昨年聞きに行った演奏会で気に入った《the musicbox-project III》という作品が収録されています。(その時の演奏が収録されているようです)この CD は昨年完成すると聞いていたのですが、ちょっと遅れたようで、今回連絡を取って送ってもらったわけです。

CD のタイトルは「the musicbox-project completed」。”musicbox-project” と題された4つの作品が収録されています。エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード、打楽器、CD などを使って作られている音楽は、エレクトリック・ミュージックと現代音楽の中間に位置付けられるような作品です。CD って何に使っているんだろうなあ?聞いた感じではリアルタイムで演奏された音を変調/再加工して再生している(いわゆるライヴ・エレクトロニック)ように聞こえるのですが、前もって録音された音を再生しているのかも知れません。ほとんど連作のように作曲されているので、各曲に共通する雰囲気はあります。番号が進むにつれてビートが派手になったりフィルターが派手になったり、かなりアグレッシヴに聞こえます。

試聴はこちらから。

http://www.burkhard-friedrich.com/englisch/current/start.html

演奏会その31: ハンブルク・フィル(第6回)

「そういえば、そろそろ今月のハンブルク・フィルの定期があるはずだけど、いつだったっけ?」と思い出したのが昨日の夜でした。危ない危ない。

例によってライスハレの近くに路上駐車して、例によってライスハレの近くの「am Gänsemarkt」で軽く夕食をとろうと思ったのですが、何かいつもと雰囲気が違います。

天井から無数の紙テープが下がっていて、店員さんやお客さんの中にはコスプレ(というか変装というか)している人もいます。ふだんは80’sがまったりとBGMに使われているのですが、今日はダンスミュージックがガンガンにかかっています。途中で踊り出す人も出てきました。よくよくカレンダーを見てみると、今日はカーニヴァルのイベント「バラの月曜日(Rosenmontag)」ということでした。このお店はケルンのビール(ケルシュ)が飲める店で、ケルンで行われるカーニヴァルはけっこう有名らしいので、まあ疑似体験というところでしょうか。

いつものアルコールフライと、今日はこのお店で初めてカリーブルストを注文してみました。カリーブルストは可もなく不可もなく、といった感じです。

6. Philharmonisches Konzert

Ralph Vaughan Williams – Fantasie über ein Thema von Thomas Tallis
Edward Elgar – Konzert für Violoncello und Orchester e-Moll op. 85
Oliver Knussen – Ophelia dances, Book 1 op. 13
Edward Elgar – Enigma-Variationen op. 36

Montag 15. Februar 2010, 20:00 Uhr

Dirigentin: Simone Young
Violoncello: Alisa Weilerstein

今シーズン6回目のハンブルク・フィルの定期公演です。今回は、ヴォーン=ウィリアムズの《タリスの主題による幻想曲》、オリヴァー・ナッセンの《オフィーリアの踊り》、エルガーの《チェロ協奏曲》と《エニグマ変奏曲》というイギリスの作曲家の作品を集めた演奏会となりました。

チェロ協奏曲のソロを務めるのはアリサ・ワイラースタイン。実は2008年の1月にハンブルクに出張に来た時に北ドイツ放送交響楽団とドヴォルザークの《チェロ協奏曲》をやった演奏会を聞いています。

実は今までエルガーの作品をあまり聞いたことがなくて、行進曲《威風堂々》の第1番とか、《愛の挨拶》とか、吹奏楽コンクールで演奏される《エニグマ変奏曲》の抜粋(多くの場合「Nimrod」とフィナーレだと思います)くらいしか知りませんでした。《チェロ協奏曲》は夭折の天才女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュプレがレパートリーにしていたということで、彼女とバルビローリ/ロンドン交響楽団の演奏で予習しました。

若手の女流チェリスト、そしてエルガーのチェロ協奏曲を演奏するとなれば、多かれ少なかれ演奏者も聴衆もデュプレの呪縛を意識せざるを得ないのではないでしょうか。デュプレの上をいこうとして、よりエモーショナルに演奏するというアプローチもあると思うのですが、一歩間違うと鼻白む自己満足に陥る危険性もあります。そうなったら嫌だなあ、と思っていたのですが、ワイラースタインはわりと客観的なアプローチでかちっかちっと弾いていたように思います。いわば実直なソロだったのですが、それでも感動的でした。前回聞いた時には柔らかい演奏をするという印象があったのですが、今回はがっちりとした骨太な演奏でした。

しかし、この曲はソリストとオーケストラが合わせるのが難しいですね。曲のラストも含めて微妙にアインザッツの呼吸が合わずに聞いていてハラハラする場面が何回かあったので、曲が終わった後の満足感が得られませんでした。ちょっと残念です。

《タリス》や《エニグマ》の弦楽器を朗々と歌わせる部分でオケをドライヴするヤングの音楽の作り方は本当にうまいです。ただ、(あまりこのドグマは持ち出したくないのですが)こういうイギリス音楽の歌い方としては、少し音が湿り気を帯びて重くなっているような気がしました。もう少しすっきり響かせてもいいのではないかと。それから《エニグマ》のテンポの速い部分がちょっと雑に聞こえて未整理だったかな。まあ、音楽全体の流れはよかったので最後は盛り上がりましたが。

ナッセンの《オフィーリアの踊り》は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルン、イングリッシュホルン、クラリネット、フルート、チェレスタ、ピアノのための音楽。10分程度の作品で前半はずっとテンポの速い変拍子が続き、後半は無拍子(指揮者のキューのみで音楽が進む)でホルンのソロを中心に展開します。演奏技術的には素晴らしかったのですが、音楽の内容はよくわかりませんでした。

とりあえず引っ越し準備でも

激しくはないのですが朝からずっと雪が降っています。まったりと音楽でも聞きながら部屋でダラダラ。

そういえば、こちらでも Eurosport というチャンネルでオリンピックの中継をやっています。バイアスロンやらジャンプやらショートトラックやら。フィギュアスケートはちゃんと放送してくれるのかなあ?

3月下旬から4月上旬にかけて現在住んでいるアパートから家族で住むドッペルハウスに引っ越すことになっているのですが、よくよく見てみると準備に充てられる週末がそんなにありません。4月2日〜4月5日のイースター4連休がおそらく正念場になると思うのですが、ここまでには大方終わらせてせっかくの連休は遊びに出かけたいなあ、と思っているわけです。ということで、ぼちぼち荷物の整理を始めることにしました。すでに本棚の肥やしになっているちょっと前の演奏会チラシを捨てたり、さしあたって読まない予定の本を段ボールに詰めたり、といった感じです。

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夕飯はまたまたチリ・コン・カルネを作ってみました。

演奏会その30: 上海フェスティヴァルコンサート

今週末は「上海フェスティヴァル」ということで中国文化に関するさまざまなイヴェントが開催されています。

そんな中からハンブルク交響楽団による「上海フェスティヴァルコンサート」を聞きに行きました。

Großes Symphoniekonzert Shanghai

Samtag 13.2.2010 / 19:00 / Laeiszhalle / Großer Saal
Concert Promotors: Hamburger Symphoniker

Mengla Huang Violine
David Cossin Schlagzeug
Hamburger Symphoniker
Dirigent Muhai Tang

Musheng Chen: »Ein Traum im Päonien Garten« für Kunqu-Sänger und Orchester
Chen Gang, He Zhanhao: »Butterfly Lovers« Violinkonzert
Tan Dun: »Water Concerto« für Wasser-Schlagzeug und Orchester (Hamburger Erstaufführung)

1曲目は1971年生まれの陳牧聲(チェン・ムシェン)の《ぼたん園での夢》。作曲者が教鞭を執っている上海音楽学院の創立80周年を記念して2007年に作曲されました。この作品はいくつかヴァージョンがあって、今日演奏されたのは京劇歌手と管弦楽のためのヴァージョン。ステージ上手奥にファルセットでヴォカリーズを歌う男性歌手、ステージ下手奥に京劇のパントマイムを踊る女性が位置しました。まあ、正直言って歌手も踊り手もいてもいなくても差し支えないように思いましたが …

作品は、まあ普通にイメージされる「中国風の現代音楽」という感じでしょうか。いかにも中国を思わせるペンタトニックの息の長い旋律にのせて、ときどき多種多彩な打楽器がドコドコと鳴らされる、といった感じで曲が進行します。その息の長い旋律のオーケストレーションが個性的かなと思いました。あまり厚ぼったくならずにすっきりしていて。時々、笙のような響きが聞こえて、弦のスル・ポンティチェロとかオーボエの高音を使っているのかな、と思ったら、編成の中にアコーディオンがいました。見た目は浮いてしまいますが(笑)、音としては効果的に使われていたと思います。

陳剛(チェン・ガン)と何占豪(かせんごう)の共作によるヴァイオリン協奏曲《梁山伯と祝英台》。1958年に作曲された作品で、作曲者2人は当時上海音楽学院の学生でした。中国では有名な民話を題材にした京劇の旋律を借用しています。おそらく、中国人が作曲したクラシックの作品としては初期のものだと思います。日本でもそうでしたが、非西洋民族という立場で西洋音楽を作曲する時には、それ以前から自分たちの文化が持っていた音楽との融合を図るのですね。音楽的にもともとの民話のストーリーを追っているようなのですが、そのあたりは知識がないのでまったくわかりませんでした。オーケストレーションなどは非常に古典的で、非常におおらかな雰囲気の音がします。

アンコールで出てきたヴァイオリン独奏者の演奏は、よくわかりませんが超絶技巧でした。ある弦の上で旋律を弾きながら別の弦の上でピチカートで伴奏したり、アルペジオのようなボウイングでピチカートのような音を出したり(非常に素早く「ポツポツポツポツ」という音がするのですが、あれどうやって演奏しているんでしょう?)。もともとそういう曲があるんでしょうか?

休憩後は譚盾(タン・ドゥン)の《水の協奏曲》(ハンブルク初演)。基本的には打楽器協奏曲なのですが、独奏者の前には水を張った大きなボウルがあり、これを使っていろいろな音を出します。水を使った楽器というとアクアフォンとかウォーターゴングとかがありますが、これ以外にも水の表面を手で叩いてビートを出したり、ボウルの中にウッドブロックを入れて叩いたり、ウォーターディジュリドゥとでもいいましょうか、太いパイプを叩きながら水に出し入れすることでピッチを変えたり、などなどをやります。

演奏はステージ上の照明を少し落とした状態で行われるのですが、独奏者が使うボウルは透明で下から照明が当てられているので、水が波立つことによって天井に映る光も揺れるような仕掛けになっています … が、ライスハレの天井はかなり高いのであまり効果的ではなかったかも知れません。

ということで、視覚的効果の強い(悪く言ってしまうとこけおどし的な)作品だと思います。これを聞きながらいろいろなことを考えました。

こういう、視覚的な効果を積極的に取り入れた作品というのはある意味非常に今日的(同時代的)であると言えると思うのですが、その反面CDやDVDなどの複製媒体による作品の流布(あるいは演奏の流布)までを念頭に入れなければいけない(もちろんそれが全てではありませんが)今日の「クラシック業界」に対するアンチテーゼであるようにも思います。(まあ、この作品はDVDでもリリースされているようですが …)

また、こういうエンタテインメント性が必ずしも数百年も連綿と続くクラシック音楽(西洋音楽)の延長線上にあるとは限らない(ある意味での「クラシック音楽」ではない)と考え方もある一方で、タン・ドゥンという作曲家が個人としての作曲語法を拡張するために意図的にこういう方向を選択した、という考え方もできるわけで …

基本的にはとても楽しめた作品だったのですが、それを捉えようとした時に上に書いたようなアンビヴァレントな考えが次々にわいてきてしまったのでした。

演奏については、打楽器がソロということもあってかタン・ドゥン特有のメリスマのきいた旋律は控えめで、オーケストラも比較的パーカッシヴな音を出します。(余談ですが、最初の方で弦楽器が演奏したモチーフは去年聞いた《チェロ協奏曲》でも使われていたような気がします)で、微妙にオーケストラと独奏者の間の細かいリズムのノリがずれていたような気がします。ちょっと残念だったかな。

指揮者の汤沐海(タン・ムハイ)は初めて聞きましたが、ヨーロッパではかなり活躍しているようです。ちょっと裏拍の点を出しすぎるきらいはありましたが(慎重派?)、大振りしないコンパクトな指揮、的確なキューがよかったです。ふだんはインテンポに留意して振り、アインザッツが必要なところはしっかりキューを出す、といった感じです。ステージ上でのコンサートマスターとのやりとりを見てもオーケストラとのコミュニケーションがうまくいったことがわかりました。

アンコール。指揮者の「上海は今お正月なので …」というMCから《何とか序曲》(詳細不明)が演奏されました。旋律が中国風と言えば言えなくもない感じです。

やはりこういうプログラムだとお客さんは少なかった(言わずもがなですが普段よりアジア系の聴衆は多いです)のですが、演奏後の拍手やブラヴォーはとても多かったです。演奏もよかったし、指揮者が醸し出す演奏会全体の雰囲気もよかったのかな?とても後味のよい演奏会でした。

今日買ったもの(レディオヘッド/RVG)

息子の入学申請書をハンブルク日本人学校(の幼稚園)に送る必要があるのと、昨年末にやっと到着した在外選挙人証の受け取り確認を在ハンブルク日本領事館に送る必要があるので、初めて郵便局に行ってみました。

場所は前回配達時に不在だった荷物を受け取りにいった DHL と Deutsch Post のオフィス。郵便料金がわからなかったので前回のように列に並んで順番を待ちます。結局、A4大の封筒は1.45ユーロ、A4を四つ折りにした大きさの封筒は0.55ユーロでした。(ちなみに日本までのハガキは1ユーロです。)

午後、演奏会の前に SATURN をブラブラ。

OK Computer

昨年ロンドンへ行った時に勝ったベックの「オディレイ」と同じように、このアルバムも1990年代を代表する重要なロックアルバムだと聞いたので、聞いてみたかったのです。2003年に発表された「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」はリアムタイムで聞いていたのですが、この「OK コンピューター」の第一印象も同じような感触でした。聞き込むと印象は変わるのかな?

あとは久しぶりにブルーノートのRVGリマスター盤を。コルトレーンのような売れ線はちょっと高めの価格設定ですが、通常盤は5.99ユーロで買えます。

The Complete ‘Round About Midnight at the Cafe Bohemia

名義としてはケニー・ドーハム(tp)のリーダー作ということになりますが、実際にはドーハムとJ.R.モンテローズ(ts)が組んだグループ「ジャズ・プロフェッツ」のライヴを4セット収録した2枚組。第2セットからケニー・バレルのギターが入ってきてカラフルになります。

Genius of Modern Music, Vol. 1

Unity

ジャズオルガン奏者ラリー・ヤングのリーダー作。1曲目《ゾルターン》のテーマは何と《ハーリ・ヤーノシュ》の第6曲「皇帝と廷臣たちの入場」の旋律でした。

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今日のハンブルガーSV情報。移籍後2戦目のファンニステルローイ2発!シュトゥットガルトに3-1で勝ちました。久しぶりにすっきり勝ったように思います。