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演奏会その5: アンサンブル・モデルン

フランクフルトを拠点として活動する現代音楽専門の演奏集団であるアンサンブル・モデルンの演奏会へ行ってきました。YMO 的には教授と alva noto のコラボレーションである「_utp」 を演奏した団体ですし、フランク・ザッパ的には遺作となった「The Yellow Shark」や、没後にリリースされた「グレッガリー・ペッカリー」を演奏した団体です。

この演奏会も7月上旬から8月末にかけて開催されている Schleswig-Holstein Music Festival (いつになってもこの長い名前を覚えられないなあ)の一環として開催されました。そもそもシュレースヴィヒ・ホルシュタインというのはキールを州都とする ドイツ最北部に位置する州です。ハンブルクは自由ハンザ都市として独立した自治体なので、どの州にも属してはいないのですが、北部をこのシュレースヴィ ヒ・ホルシュタインに取り囲まれているので、この音楽祭に参加しているのだと思われます。

会場は NDR(北ドイツ放送)のロルフ・リーバーマン・スタジオというところ。住宅地の真ん中に忽然と建っています。車を停めてから夕食をとろうと思ったのですが、近くにあまりお店がありません。少し歩いて、最初に目についたイタリアンのお店に入ることにしました。例によって「英語できますか?」と聞いたところ「No」とのこと。その代わりにイタリア語でメニューを説明してくれました(笑)。まあ、イタリア人が作っている(と思われる)のだからあらかじめ茹でたパスタを出すようなことはしないだろうし、細いパスタはあらかじめ作りおいておくわけない、という読みでカッペリーニ・ボロネーゼと、ミネラルウォーター(イタリア産のサン・ペレグリーノ。久しぶりだあ。)を注文しました。

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当たり。うまいです(例によって量は多いけど)。先輩駐在員に聞かされた話から、ドイツでパスタを食べる時には慎重になっていたのですが、今のところ外れはありません。

さて会場へ。オーケストラを録音するためのスタジオのようですが、ちゃんとした客席も用意されています。キャパは400〜500人くらいでしょうか?客席の角度が急なので天井はかなり高いです。逆に天井を高くしたから客席の角度を急にせざるをえなかったのかな?これで自然なアンビエンスは確保できるのだと思います。

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Hamburg
NDR, Rolf-Liebermann-Studio
Freitag  20 Uhr   K 90
€ 18,-

Festkonzert 20 Jahre Paul Hindemith-Preis und Preisverleihung 2009
Ensemble Modern
François-Xavier Roth Dirigent

Paul Hindemith / Kammermusik Nr. 1 mit Finale op. 24 Nr. 1
Márton Illés / Torso III. für Ensemble
Thomas Adès / Chamber Symphony for fifteen players op. 2
Michel van der Aa / Mask für Ensemble und Soundtrack
Johannes Maria Staud / Sydenham Music für Flöte, Viola und Harfe
Johannes Maria Staud / Incipit für Altposaune und fünf Instrumente

この音楽祭では「パウル・ヒンデミット賞」という若手の作曲家に対して送られる賞が設けられていて、今年はウィーン在住の作曲家ヨハネス・マリア・シュタウトが受賞しました。その受賞作品の披露コンサートです。賞が制定されてから今年がちょうど20回目だそうで、そのせいかどうかわかりませんが、過去の受賞者による作品ばかりが演奏されました。(もちろんヒンデミットは別枠ですが。)

ヒンデミットの室内音楽第1番はけっこう好きな作品で、アッバード/ベルリンフィルの演奏をよく聞いているのですが、それと比べるとかなり早めのテンポでした。切れ味はいいんだけど、ちょっと荒くなってしまったかな。第3楽章「四重奏曲」は木管楽器(フルート、クラリネット、ファゴット)と打楽器が絡む楽章。ほとんど指揮なしでアンサンブルしていました。

マールトン・イッレーシュ(ハンガリー)は昨年度のヒンデミット賞受賞者。すでにかなりの経歴の持ち主のようです。今回の演奏会では、この《トルソ III》がいちばん面白かったかなあ?細かい音符の堆積によって構成されているような音楽で、その疎密の遷移の具合が面白い作品でした。例えば固体が結晶化していく様子を、順回転で再生したり、逆回しで再生したり、あるいは再生スピードを変えてみたり、といったイメージが頭に浮かびました。ある楽器のモチーフをきっかけに音符の堆積がアンサンブル全体に広がっていったり、あるいはその逆に密集しているミクロな音の固まりがだんだん拡散していくような感じです。

トーマス・アデス(イギリス、この人だけは名前を知っていました)は2001年度の受賞者。

ミシェル・ファン・デル・アー(オランダ)は2006年度の受賞者。

最後にヒンデミット賞の授賞式(ちなみに賞金は20000ユーロだそうです。)をはさんで、受賞者ヨハネス・マリア・シュタウトの2作品が演奏されました。《シデナム・ミュージック》はフルート、ヴィオラ、ハープのための音楽。これも面白かったです。この編成での音楽というと、ドビュッシーや武満徹などの作品の柔和なソノリティがイメージされるのですが、それらとは逆に各楽器の音色を際立たせて対比させている気がしました。ハープは平均律ではない調律がされていたのかな?それからハープのチョーキング(?)は初めて見ました。弦を弾いたあとにテンションを変えて音程を変えていました。

おそらく、今日演奏された作品や作曲家がコンテンポラリーな音楽の主流ということなのだと思うのですが、少なくとも私の耳には、それらの作品の方向性があまりにも似過ぎていることが気にかかりました。前回行った演奏会の「何でもあり」に比べると、演奏会自体や聞きに来ているお客さんがオーセンティックだったのかな。

それにしてもアンサンブル・モデルンの演奏能力はすごい。例えばフルートの重音奏法やウィスパートーン、オーボエのフラッターなどの特殊奏法が何の違和感もなく聞こえますし、トランペットのすさまじい跳躍や細かいパッセージ(しかも木管楽器とのユニゾン)なども安定していました。楽器間のバランスとしてホルンやトロンボーンが控えめに聞こえたのは私が座った席の問題なのかな?

演奏会その4:ヤングスターズ―新しいドイツ

3週間に一度の、つらいつらい一日ミーティング。そのあと車で直接コンサート会場に向かいました。意外と会場近くに車を停めることができたのでラッキー。ちょっと腹ごしらえをするつもりで近くのタイ料理屋に入りました。(最近、小じゃれた店を避ける傾向にあるなあ …)いちばん軽そうなので麺を食べることにしました。メニューにスパゲティとあったので「これはイタリアのスパゲティ?それともタイヌードルのこと?」と聞いたら「イタリアのスパゲティにタイ風のソースをかけたもの」だそうで、ちょっと怖いので普通のタイ風焼きそばにしました。

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それでも量多過ぎ。しかも食べているとだんだん飽きてきます。途中で(タイの辛いペーストって何て言うんでしたっけ?)を追加してちょっとアクセントをつけました。

で、入場。つい、いつもの習性で CD を買ってしまいました。今日演奏するアンサンブル・アンテグラーレがアジアの作曲家の作品を集めて演奏した CD です。「望月京」の名前に反応してしまいました。

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Youngstars – Neues (aus) Deutschland
ensemble Intégrales
Hamburger Kammerspiele
20 Uhr

ハンブルクを中心に活動する「アンサンブル・アンテグラーレ」(綴りがフランス語っぽいからこれでいいんだよな?)の演奏会。ドイツ生まれの若手(といっても40歳過ぎた方もいましたが(笑))作曲家の作品を中心としたプログラムでした。会場の Kammerspiele は「室内劇場」とでも訳せばいいのでしょうか?小劇場というか映画のミニシアターというか、おそらくキャパは200~300人くらいの小さなスペースでした。

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ジョン・ケージ/ファイブ
John Cage / Five

ピアノと打楽器がステージ上に、クラリネット、サクソフォン、ヴァイオリンが客席を取り囲むように三方に位置するという配置。ピアノは内部奏法によってダルシマー(というかサントゥールというかツィンバロムというか)のような音を出し、それぞれの楽器は基本的に持続音を演奏します。打楽器も鍵盤楽器やゴングを弓で弾いていたような … 各楽器のアインザッツは指定されていない(開演前にちらっと楽譜を見たところ、大まかな時間のみが指定されていました)ので、それぞれの楽器の音の重なり具合(あるいは重ならなさ具合)の偶然性を聞く音楽です。ケージには「58 (Fifty Eight)」という58人の管楽器奏者のための作品(つまり吹奏楽作品)がありますが、アイデアとしては同じようなものですね。

マルコ・シシリアーニ/腐食〜アナログシンセサイザーとレーザーリアクターのための
Marko Ciciliani / Corrosion für analogen Synthesizer und Laserreflektor

レーザーリアクターというのは、ライブの演出などで使われている緑色の光線のアレです。それがアナログシンセサイザーの音と同期して動くという電子音楽作品。今の時代にあえてアナログシンセサイザーを使うのであればもっといろいろなことができそうな気がするのですが、電子音楽の黎明期、つまり40~50年前の作品と比較してもあまり面白みがないと思いました。

ステファン・ギュンター/アンティーク(NDR 委嘱作品)
Stefan Günther/ Die Antike (UA, Auftragswerk des NDR)

下にもいろいろ書いていますが、どうも私は音楽作品を構成からとらえるようで、この作品のように未知のソノリティを追求する方向に傾いている作品はどうも苦手です。

ヨハン・ザイデンシュティッカー/Ich bin ein Limes gegen Nichts(訳せません …)〜声、サクソフォン、打楽器、ピアノのための
Johann Seidensticker / Ich bin ein Limes gegen Nichts (UA)

上記の作品に比べると「普通の現代音楽」として聞けて面白かったですが、こういう編成だと、やはりシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》やブーレーズの《ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)》が頭に浮かびます。それらの印象を払拭するような衝撃はありませんでした。

カールハインツ・シュトックハウゼン/ナーセンフリューゲルタンツ(鼻翼の踊り)〜打楽器とシンセサイザーのための
Karlheinz Stockhausen / Nasenflügeltanz

聞いた限りでは、シンセサイザーは打楽器独奏の効果音のような使われ方をしていました。基本的には一人の打楽器奏者のための音楽。シュトックハウゼンの長大なオペラ(ワーグナーの《指環》より長い)《光》の中の一曲だそうです。打楽器奏者が途中で歌い出したり、演奏の合間には和太鼓奏者のように両手を上段にふりかざすジェスチャーがあったりと、パフォーマンス的な要素もありました。特徴的なリズムパターンが繰り返され、ある意味「秩序だった音楽」だったので面白く聞けました。

ここで休憩。

フェリックス・クービン/タイガー・マスク
Felix Kubin / Tiger Mask

今日の演奏会の中ではいちばんクレイジーな作品でした。「タイガー・マスク」は、あのプロレスラーのタイガー・マスク。ちなみにマンガのキャラクターではなくて新日本プロレスに所属していたタイガー・マスクです。ピアノと打楽器がいわゆる現代音楽っぽい楽想を演奏し、ライブエレクトロニクスを担当している作曲者がライブでそれらの音を加工しながらナレーターにキューを出します。ナレーターが演じるのはリング・アナウンサーと実況のアナウンサーと解説の桜井さん(笑)。ご丁寧にリング・アナウンサー用のマイクには軽くディストーションがかけてあります。この調子でタイガー・マスクの試合の様子を実況します。しかも2試合(笑)。日本人ですらこのナレーションだけで内容を理解できる人はそんなに多くないと思います。ゴールデンタイムにテレビでプロレスを見ていた世代ならわかると思いますが、ちなみに「おーっと!プランチャーだ!」と言われて絵が浮かびますか(笑)?いわんやドイツ人をや。案の定、隣に座っていたドイツ人に「今しゃべっていたのは日本語だと思うんだけど、これは意味のある言葉なのか?それともただの fantasy なのか?」と質問されました。

ちなみに作曲者のフェリックス・クービンは数年前にアルス・エレクトロニカでも演奏したことがあるそうです。

ブルノ・トレス-スネン/アウスリンゲン〜テナーサクソフォン、ピアノ、打楽器のための(NDR 委嘱作品)
Bruno Torres-Suñen / »ausklingen« (UA, Auftragswerk des NDR)

ザイデンシュティッカーの作品同様、他の作品と比較すると「普通の現代音楽作品」なのでほっとします。サクソフォンの旋律を軸にピアノ(またしても内部奏法)と打楽器が点描的にからむような作品。これもサクソフォンの旋律がだんだん複雑になり、それにつれて他の楽器も高揚していく、といった展開のわかりやすさが(私にとって)いいのかも知れません。ちなみに作曲者は17歳だそうです。年齢にしては作品に隙がなさすぎるような気がするので、将来がちょっと心配(笑)。

ブルクハルト・フリードリヒ /ミュージックボックス・プロジェクト III〜エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード、打楽器、CD、ライブエレクトロニクスのための
Burkhard Friedrich / the musicbox project III (UA)

今日の演奏会ではいちばん面白かった作品。エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード(何かよくわかりませんが音源モジュールのようなものも使っていたようです。カーテンコールで出てきた時にコードを足にひっかけて派手に転がしていました(笑))、各種パーカッション、それらを加工するライブエレクトロニクス、CD がどういう風に使われているかはよくわかりませんでした。ヴァイオリンが旋律的なものを演奏しますが、グリッサンドを多用した断片のような感じ。キーボードは時おりジャズ的なコードパターンのリフを演奏し、打楽器も時おりトニー・ウィリアムズのライド・シンバルを思わせるような早いリズムパターンを演奏します。これらと、エフェクトが付加された音が混沌と交錯するところがかっこいいです。最後は打楽器、ヴァイオリン、ピアノの順にステージを降り、誰もいなくなったステージの上でジャズ的なフレーズが繰り返されて、突然終わります。この人の CD も買っておけばよかったなあ。他の作品も聞いてみたいです。

作曲者の名前もほとんど知らない作品の演奏会というのもなかなかスリリングでしたが(そもそも、どうして聞きに行こうと思ったんだ?)、自分にとっての「玉」と「石」がちゃんと認識できた玉石混交状態で、平均すれば満足度は高かった演奏会でした。数年後に、また、これらの作曲家の名前が聞けるかどうか楽しみに待つことにしましょう(笑)。

演奏会その3:金管アンサンブル(フリードリヒなどなど)

夜のコンサート会場の下見も兼ねてアルスター湖の西岸へ。聖ヨハニス教会というところで行われるのである。車を停めてブラブラする。昼食は教会の近くのイタリアン・レストランにフラッと入ってみることにした。

またキノコです、すみません。「フェットチーネ・フンギ」という言葉にひかれてしまいました。例の、今が旬の Pfifferlinge のクリームソースで和えたフェットチーネにパルミジャーノ・レッジャーノとルッコラがのっています。パスタのゆで具合もいい感じ。なかなか当たりでした。ところで、このまわりにはイタリアンのお店が何件かあるんだけどちゃんと商売できているのかな。余計な心配ですが。

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このお店から東に歩いていくとアルスター湖にぶつかるのであるが、そこにアルスター公園がある。広々としているし、木陰はあるし、湖は近いし、ベンチに座って、ボーッとしているだけでかなり幸せになります。

あわよくばコンサートの開演までこのあたりでウダウダしていようかと思ったが、さすが3時間も4時間も時間は潰せない。いったんアパートに帰って出直すことにする。

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で、再び車で聖ヨハニス教会へ。昼間に来た時より教会の近くに駐車スペースを見つけることができた。結果オーライですな。意外に早く着いてしまったので、近くのカフェでコーヒーでも飲んで時間をつぶそうと思ったら、いきなり大雨。途中まで歩いて行ったけどずぶ濡れになりそうだったので引き返す。教会の入り口で入場(開場)を待つしかない。

Zeitblenden

Hamburg
St. Johannis am Turmweg
19.07.2009 Sonntag  19 Uhr

Eriko Takezawa Klavier
Reinhold Friedrich Trompete und Leitung
Mitglieder des Schleswig-Holstein Festival Orchesters

Giovanni Gabrieli / Canzon I
Edison Denisov / Solo für Trompete
Edison Denisov / Con sordino für Trompete und Klavier
Giovanni Gabrieli / Canzon VIII
Sofia Gubaidulina / Trio für drei Trompeten
Giovanni Gabrieli / Canzon septimi toni
Galina Ustwolskaja / Sinfonie Nr. 4 »Gebet«
Giovanni Gabrieli / Canzon XV
Edison Denisov / Pour Daniel für Klavier
Giovanni Gabrieli / Canzon XXI a tre voci
Sofia Gubaidulina / Quattro
Giovanni Gabrieli / Canzon noni toni a tre cori

  • エディソン・デニゾフ/トランペットのための《ソロ》
  • ジョバンニ・ガブリエリ/カンツォーナ第1番《ラ・スピリタータ》
  • エディソン・デニゾフ/トランペットとピアノのための《コン・ソルディーノ》
  • ジョバンニ・ガブリエリ/《カンツォーナとソナタ集》よりカンツォーナ第8番
  • ソフィア・グバイドゥーリナ/3本のトランペットのための《トリオ》
  • ジョバンニ・ガブリエリ/《サクラ・シンフォニア》より8声のピアノとフォルテのソナタ
  • ガリナ・ウストヴォリスカヤ/交響曲第4番《祈り》〜アルト、トランペット、打楽器、ピアノのための
  • ジョバンニ・ガブリエリ/《カンツォーナとソナタ集》よりカンツォーナ第15番
  • エディソン・デニゾフ/ピアノのための《ダニエルのために》
  • ジョバンニ・ガブリエリ/《カンツォーナとソナタ集》より3声のソナタ第21番
  • ソフィア・グバイドゥーリナ/2本のトランペットと2本のトロンボーンのための《クアトロ》
  • ジョバンニ・ガブリエリ/《サクラ・シンフォニア》より第9旋法によるカンツォーナ

トランペットはラインホルト・フリードリヒ、ピアノはドイツで活躍されている日本人タケザワエリコさん(漢字がわからん…)、アルトはジルケ・マルヒフェルト、それ意外の管楽器と打楽器は Schleswig-Holstein Musik Festival に参加している若き演奏家たち、という面子。

期待以上に面白い演奏会であった。皆さんは緊張感のある現代音楽作品のあとに教会中に響き渡るトランペットとトロンボーンによるガブリエリの音像を想像できますか?最初の3曲はほとんどアタッカで演奏されたのですが、最初のデニゾフの作品の最後にあるトランペットの高音の吹き伸ばし、その残響の中で間髪入れずに演奏されたガブリエリを聞いた瞬間、鳥肌が立ちました。

とはいえ、なんかデニゾフの作品はピンと来ないなあ … 絶対音楽すぎるというか … ちなみに《ダニエルのために》の「ダニエル」はバレンボイムだそうです。
グバイドゥーリナの2作品は管楽器の「凶暴さ」を十二分に生かした面白い作品でした。中音域で協和している時の厳かな響き、高音域の細かいタンギングと不協和音の荒々しさ、そのあたりの金管楽器特有の表現の幅が生かされているように思いました。特に《クアトロ(四重奏曲)》の方は、トロンボーン同士、トランペット同士が向き合って吹いたり、ソロ以外の演奏者は後ろを向いて吹いたり、と音の指向性にも注意が向けられているのかなあ。
ウストヴォリスカヤ(という作曲家は今回初めて名前を耳にしました)の交響曲第4番はたった4人の演奏者による作品。ううん、「交響曲」と名付けた作曲者の意図は何となくわかった気がするが、作品として面白いかというと …

ガブリエリの作品はオルガン(タケザワさんが演奏)も参加しています。オルガンはアンティフォンの片方にのみ参加しているので、より2群のコントラストが際立つ感じでした。あと、これはルネサンス期の作品を演奏する時のコモンセンスなのかも知れないけど、強奏と弱奏でのシラブルの違い、長いパッセージと細かいパッセージでのアタックの違いが明確に区別されているのが印象に残りました。ふと、大学時代にOB/OGで編成したブラスアンサンブルで誰の作品だったっけ?を演奏したことを思い出しました。あの時のアプローチはあながち間違っていないんだなあ、と今さらながらに思ったりして。

また自宅でワイン

月曜日に振り込んだ Schleswig-Holstein Musik Festival のチケット代金が無事に受理されたようで、チケットが送られてきた。金曜日にネットで申し込み → 土曜日に振り込み指示が書かれた封書が到着 → 月曜日に銀行送金 → 木曜日にチケット到着、とかなり迅速な処理なのだが、今週末の日曜日に開催されるコンサートのチケットも含まれていたので、少々焦っていたのである。

ちなみに日曜日に開催されるのは、Eriko Takezawa のピアノとラインホルト・フリードリヒのトランペット(と若干のサポートメンバー)によるコンサート。ハンブルク市内にある聖ヨハネス教会で行われる。ルネサンス期の作曲家であるガブリエリの作品と、デニゾフ、グバイドゥーリナ、ウストヴォリスカヤといった旧ソ連を代表する20世紀の作曲家の作品が交互に演奏されるという面白そうなやつです。

昨日と同じように、今日も自宅でワインとハムとポテチとナッツ。いいんじゃないですか。

で、ワインを飲んでいると突然の来客。月曜日に来ると言っていた管理人さんが今日来ました(涙)。

演奏会その2:黄金の20世紀

前日寝たのは午前3時くらい(前日じゃねえな、当日だな)なのだが、律儀に午前8時に目が覚めてしまう。さすがにもう少し体を休めたいので、洗濯を仕込んでもう少し寝る。

今日は、まず予約した演奏会のチケット(今日の分も含めて)を引き取りに行って、そのついでにいくつか買い物、いったんアパートに戻ってきて、あらためて演奏会に出かける、という計画にした。まずはハンブルク歌劇場のチケットオフィスに行こうと思うのだが、やはりHasselbrookとBerliner Torの間のS1(Sバーンの1号線)は動いていないようなので、この間は連絡バスに乗る。Berliner Torからハンブルク歌劇場最寄りのGänsemarktまでは乗り換えなしに行ける。

ということでハンブルク歌劇場。グスタフ・マーラーが一時ハンブルク歌劇場の音楽監督として在任していたらしく(そうだったっけ?)、正面の壁にレリーフが飾ってあった。チケットオフィスは左手の奥にある。窓口によるとオンラインのチケットサービスが故障して動いていないらしくチケットの発券ができなくなっているとのこと。「今日の分はすでに発券されているかも知れない」ということで探してみてもらうが、やはりまだのようで「開演前にライスハレのチケット売り場に行ってくれ」とのこと。ううん、何しに来たんだか。演奏会案内とか機関誌をもらって帰る。

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そのあとはOCSハンブルクに行ってみる。日本の商品をいろいろ売っているところである。ここで土曜日に日本風のパンを売っている(デュッセルドルフから持ってくる)ということを教えてもらったのでちょっと買ってみようと思ったのである。そのあとはデパート「カールシュタット」に。一泊旅行に使えるくらいの大きさのカバンを買う。やはり秋冬は昼の時間が極端に短くなるのでちょっとした観光には適さない。日が長い時期のうちに近場(一泊旅行圏内)の観光地は回っておこうかなと思ったわけである。以前、アメリカ駐在中の友人とメールをやり取りした時に言われたのであるが、やはりヨーロッパでは日が長い時期はアウトドアに出かけ、長い冬はインドアの演奏会とかを楽しむのではないかと。そういうわけで、これからの季節はちょっとおでかけした方がいいのかも知れない。とりあえずケルンに行ってみたいと思っているのだが。

で、いったん出直して演奏会。今日の演奏会は通常のコンサートホールであるライスハレであるが、ここも最寄り駅はGänsemarktである。少しだけお腹に入れておこうと思うがライスハレ周辺にはあまり選択肢がない。土曜日なのでそもそも空いている店が少ないのかも知れないが。ライスハレの向かいにあるイタリア料理店に入る。とりあえずお酒はやめておいてアプフェルショーレ、それからラビオリのレモンソースを頼む。お店のロケーション上、多少高めなのはしょうがないか。味はなかなかよい。(ハンブルクのイタリア料理店の多くはあらかじめ麺を茹でてあるらしいので、そういうところに比べれば …)

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実はライスハレの前で簡単な食べ物や飲み物が売られていることにあとで気がついた。次回からはこれでいいや。チケットはかなりギリギリで入手できたが、あわてて別の席に座ってしまい、怒られる。

今日の演奏会は「黄金の20世紀」と題されたハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の特別演奏会。20世紀前半に作曲された作品のうち、ジャズとか映画音楽とかに関連のある作品を集めた演奏会である。かなりリラックスした雰囲気で、鮮やかな色のドレスを着ている女性奏者もいるし、黒シャツに赤い蝶ネクタイという男性奏者もいる。音楽監督のシモーネ・ヤングはノースリーブでほとんど背中丸出しといういでたちで棒を振る。

  • フリートリヒ・ホレンダー/映画「嘆きの天使」のメロディによるマレーネ・ディートリヒ・メドレー
  • フランシス・プーランク/管弦楽組曲《牝鹿》より〈アダージェット〉、〈ラグ―マズルカ〉
  • ジョージ・アンタイル/ジャズ・シンフォニー
  • ベルトルト・ゴルトシュミット/管弦楽組曲より〈シャコンヌ〉、〈タランテラ〉
  • ドミトリ・ショスタコーヴィチ/バレエ音楽《ボルト》より〈官僚の踊り〉、〈荷馬車引きの踊り〉
  • ボフスラフ・マルティヌー/ジャズ
  • ダリウス・ミヨー/屋根の上の牡牛
  • アルテュール・オネゲル/夏の牧歌
  • クルト・ヴァイル(モートン・グールド編曲)/ベルリン組曲(〈マック・ザ・ナイフ〉、〈スラバヤ・ジョニー〉、〈ビルバオ・ソング〉)
  • ジョージ・ガーシュウィン/3つの前奏曲より第2番、第1番

アンコール

  • スコット・ジョプリン/メイプルリーフ・ラグ
  • マルティヌー/ジャズ
  • (不明)

シモーネ・ヤングについては名前は知っていたがその演奏は聴いたことがなかった。正直、女性指揮者ということで多少の先入観があったことは確かなのだが、そんな先入観がまったく無意味だったと思わせるくらい私好みだった。全体的にはかなり手堅くまとめているのだが、大胆に歌わせるところと、きっちりリズムを刻ませるところのコントラストが明確だし、その指示も的確、また無理にオーケストラをドライブせずに、自然に生まれる流れを大切にしているような感じである。

ちょっと調べてみたら、アンタイルの《ジャズ・シンフォニー》は前任指揮者インゴ・メッツマッハーがやっていた「Who is afraid of 20th century music?」で取り上げられていた。全般的には第1部の方がにぎやかな作品が多くて面白かった。個人的に面白かったのはゴルトシュミットの管弦楽組曲。ヘンテコなリズム・オスティナートに乗っかった作風が映画「サイコ」のサウンドトラックを彷彿とさせる。ヴァイルの作品はグールドの編曲によってちょっと毒がなくなってしまったかな。マルティヌーのジャズという作品は初めて聞いたのだが、演奏者による歌などが入っていて面白い演出。ミヨーの《屋根の上の牡牛》も初めて聞いたかな、サンバのリズムの鮮やかな部分を中心とするロンド形式(?)、あるいはこの部分とミヨー得意の複調旋律が登場する抒情的な部分が交代で出てくるような構成。

演奏会はシモーネ・ヤング自身の解説をはさんで進められるのだが当然ドイツ語。ときおりお客さんの笑いを取っているのだが、何を言っているのか全然わからないのがちょっと悔しい。アンコール一曲目ではメイプルリーフはカナダの国旗に描かれていますうんぬんかんぬん、ピッコロ奏者がカナダ出身でうんぬんかんぬんと言っていた(推測)。ピッコロ奏者がおもむろにカナダ国旗を取り出して譜面台に貼り付けて演奏スタート。そういえば「カナダ人のバッグパッカーはバッグに国旗をつけているのですぐわかる」というジョークを思い出す。

何よりもこの演奏会でよかったのは、指揮者と演奏者と聴衆の結びつきのようなものを感じられた点である。この演奏会はシーズン(2008年〜2009年シーズン)の定期演奏会を全て終えたあとでの特別演奏会、いわば「シーズン最終戦のあとのファン感謝デー」のような位置付けなのである。指揮者はコンサートマスターをはじめとする演奏者をねぎらい、演奏者は指揮者をねぎらい(当然団員から花束が送られた)、聴衆は指揮者と演奏者におしみない拍手を送る(ちなみにシモーネ・ヤングはオーストラリア出身なのでオーストラリアの国旗を振っているお客さんもいた)、といった構図に、このオーケストラがこの街(つまりこの街の人たち)に根付いていることを感じる。東京や大阪だとこういう感慨を感じることができるのかなあ?浜松では100年かかってもできない気がするが。

初演奏会(China Spectacular)

昼食は社長と先輩駐在員と。前に行ったRahlstedt駅前にあるアジア系の料理屋である。チキンナゲットのようなものが付け合わせについた焼きそばを注文する。チキンナゲットはスイートチリソースをつけて食べるのだがなかなか美味。

週末だし、そろそろ多少なりとも生活が落ち着いてきたし、町の中心部での運転も慣れてきたし、ということでコンサートに行ってみることにした。
北ドイツ放送交響楽団(NDR)による「China Spectacular」という演奏会。中国の作曲家による作品を中国人が指揮するコンサートである。(ただ、理由はよくわからないが指揮者の Long Yu は交代になっていて、代役のペーター・ルンデルが振っていた)。

場所はNDRのホームグラウンドのライスハレではなく、カンプナゲル(Kampnagel)というところ。多少覚悟はしていたが、やはり会場近くに駐車スペースはない。結局3ブロックくらい離れた住宅街に止めることができた。ドイツでは町中でも道路脇に駐車スペースが確保されていて、そこが空いていれば無料で停めることができる。有料駐車場に入れるのは「最終手段」らしい。なので、日本ではあまり必要のない縦列駐車のテクニックが必要とされるのである。ドイツに来てから日本での10年分くらい縦列駐車をしているような気がする。smart のような車がヨーロッパで売れるのはすごくわかる気がする。

で、そのカンプナゲルは倉庫を改造したようなところイベント施設のようだ。他のフェスティバルも行われているようで、芸術系大学の学園祭のような雰囲気がある。チケットは€16で全席自由。チケットを購入したあとで軽い食事。アップルシューレとトマトスープを食す。

入場してみると、会場は倉庫の中に仮設スタンドを作って観客席を作ったような感じ。スペースの半分をオーケストラが占め、もう半分が観客席になっている(なので、観客席はけっこう傾斜がきつい)。私が座ったのは前から2列目で中央からちょっと上手寄りだったのだが、指揮者までの距離は5mくらいである。

  • 譚盾(タン・ドゥン)/The Intercourse of Fire and Water (Yi1)
  • 陳其鋼(チェン・キガン)/ヴェールを取られたイリス(Iris devoilee)

タン・ドゥンの作品は1994年作曲(1995年改訂)ということなので比較的古い作品である。編成や奏法的にも(後年の作品に比べると)それほど奇抜なことはやっておらず、わりとオーソドックスなチェロ協奏曲である。「陰と陽の思想」がうんぬんかんぬんと解説には書いてあるみたいだがよくわかりません。
チェン・キガンの名前は初めて聞いたのだが(ちなみに会場に来ていました)、北京オリンピックの開会式のための音楽を書いたりして、最近注目されているらしい。北京からフランスに渡ってオリヴィエ・メシアンに師事したとのこと。この作品は2人の女性歌手(一人はクラシック的な唱法、もう一人は京劇かな?)と3つの民族楽器(琵琶、二胡、琴)のための協奏曲。

曲はというと、タン・ドゥンの作品がかなり楽しめた。知名度が高くなってからのタン・ドゥンの作品はシアトリカルな側面が強くなって、うさん臭いというか眉に唾をつけたくなるのですが、この作品は音楽的に面白い。チェロは予想通り非西洋的な奏法(ポルタメントとか音程感のない琵琶のような奏法とか)が多く引き込まれた。一方、チェン・キガンの方はこれだけのソリストを集めた必然性があまりないように思う。「中国的なもの」のショーピースのような感じ。全般的には穏やかな曲想で、そういったところの弦の持続和音は確かにメシアンに通じるものがあるのかな、という気がするが、曲全体を通して考えるといささか単調かなと。

これだけ近くでオーケストラの演奏を「見る」機会はそうそうないと思うのだが、特に弦楽器奏者の「動き」を感じられるのは面白い。タン・ドゥンの作品では各楽器のトップ奏者が細かいパッセージを掛け合いする部分があって、それがだんだんパート内でのユニゾン、それから弦全体でのユニゾンに広がって行くのである。この広がって行く様子が弦楽器奏者の「運動」として目に見えるのはかなり感銘を受ける。あと、うまいオケはちゃんと「鳴る」せいか、やはり音が大きい。うるさい大きさではなく、ちゃんと響いているという感じがするのである。

会場に置かれていた演奏会案内のパンフレットを見ると、鼻血が出そうな演奏会がたくさんある。楽しみ楽しみ。

なゆた・浜北 まちなかコンサート

浜松市の遠州鉄道浜北駅前でのコンサート。

昨年まではブログの中で「プロムナードコンサート」と言っていたが、正式は「なゆた・浜北 まちなかコンサート」というのだそうだ。積志ウィンドアンサンブルは一昨年、昨年に続き、3回目の出演となった。

演奏曲目は以下の通り。

  • 矢部政男/マーチ・エイプリル・メイ
  • 崖の上のポニョ
  • ヤッターマン Brass Rock
  • 歩み
  • We are all alone
  • 海雪
  • ジャパニーズ・グラフィティV~日本レコード大賞・栄光の昭和50年代~
  • サンダーバード

それなりに楽しいステージではあったのだが、やはり短い練習時間で全体のノリを合わせる効果的な方法を模索しないと。ただ楽譜にかじりついて演奏したりだとか、あるテンポに固執してしまったりすると、何度練習してもまとまってこないのでは?

しかし、《We are all alone》を振ると、この曲をアンコールで取り上げた演奏会(積志ウィンドアンサンブル第24回定期演奏会)のことが思い出されてしょうがない。

演奏終了後、最前列で見ていてくれた息子と記念撮影。去年は近くを通る電車ばかり気にしていたようだが、今年は「かっこよかったよ、おつかれさま」と声をかけてくれた。成長したものだ。この姿をいつまでも目に焼きつけておくように。

ヤマハ吹奏楽団第43回定期演奏会

2009年4月11日(土)15:00 アクトシティ浜松大ホール

第1部

  • アルフレッド・リード/春の猟犬
  • ダリウス・ミヨー/フランス組曲
  • ドナルド・グランザム/舞楽

第2部

  • 藤代敏裕/マーチ「青空と太陽」
  • 長生淳/シング・ウィズ・シンセリティー
  • 諏訪雅彦/16世紀のシャンソンによる変奏曲
  • オットリーノ・レスピーギ/交響詩「ローマの松」

アンコール

  • ジョン・フィリップ・スーザ/海を越える握手(手拍子なし)
  • ジョン・フィリップ・スーザ/海を越える握手(手拍子あり)

例年、所属する吹奏楽団の合奏と重なっていたので、久しぶりに聞きに行った。(もっとも昨年はカナダ公演のために定期演奏会自体が開催されなかったのであるが)

しかし、あらためて見ると人数が増えましたなあ。プログラムに載っている団員数は68名+新入団員13名で計81名である。今年からのコンクール対策でこれだけの人数を集める必要があったのかなあ、と思ったりして。

演奏会は須川さんの簡単な曲解説をはさんで進められる。特に《フランス組曲》の説明は須川さんの曲作りが端的にわかった。(個人的に、今回の演奏会は須川さんが指揮するこの曲を聴きに行ったようなものである)私もこの曲については須川さんと同じようなとらえ方をしている。つまり、この曲の重心は、第2次大戦でもっとも不幸な境遇にあった地域の名前を冠した楽章である第4楽章の《アルザス=ロレーヌ》にある。サクソフォンから開始される葬送行進曲は、わずか1小節のブリッジを経て長調に転調し、力強い独立の賛歌に変わるのである。その後に演奏される第5楽章《プロヴァンス》(ミヨーはエクサン・プロヴァンス出身)には前楽章の生真面目さを照れるような洒脱さがある。

《16世紀のシャンソンによる変奏曲》は最小編成(クラリネットですら1パート1名だった)による演奏。初めて聞いたのだが(早く注文しなくっちゃ)いい曲ですね。須川さんの解説では、当時の奏法を研究して実践したらしい。この演奏しか聞いたことがないので50名くらいで演奏する「本来の」響きが想像できないのであるが、この演奏を聞くとこういう編成でこそ聞き映えがするのではないかと感じた。

昨年の全日本吹奏楽コンクールで演奏した《シング・ウィズ・シンセリティー》の完成度が突出しているのはわからないでもないが、他の作品のサウンドとの違いがありすぎるのが気になる。「細かく作り込むというよりは大らかに明るく響かせる」(と個人的にはとらえている)須川さんの棒はオリジナル曲との相性がいいと思っていたのだが、《春の猟犬》や《舞楽》あたりだとちょっとがちゃがちゃしてアンサンブルが粗く聞こえてしまう。このあたりは今後関係が深まるにつれて進化していくのだろうか。

というわけで、意外と《ローマの松》が安心して聞けた。総勢12名のバンダを加えた《アッピア街道の松》は吹きまくって、ある意味大人げない(笑)演奏だったが、あれだけの音をバンドから引き出せるのは須川さんの指揮(バトンテクニックだけではなく指揮者としてのカリスマ性というか人間性も含めて)に変わった大きな成果なのではないかと思う。

アンコールはフェネル直伝のスーザ・マーチ。1度目はあえて手拍子なし(確かに何も知らないお客さんはあの「タメ」についていけないだろう)、2度目に手拍子を入れた演奏となった。須川さんも2回目の演奏の前に演奏者に「ごめんなさい」と言っていたが、確かに《アッピア》であれだけ吹いた後にスーザ・マーチ2回はきついだろうなあ(笑)。

playing the piano 2009 _out of noise(富士)

2009年4月1日 富士市文化会館ロゼシアター

会社を半休して教授のコンサートへ。同僚の車に便乗して高速で富士へ向かう。15:00過ぎにロゼシアターに到着。リハーサル見学の集合時間が15:30だったのでちょうどいい。

ロゼシアターには大ホール、中ホール、小ホールがあってそれぞれに入り口があるのだが、リハーサル見学の当選メールでは集合場所が「正面入り口前」となっていて、どこで待っていればいいのかちょっと迷う。同じように当選した人たちも何となく集まって来て、結局大ホールの入り口の前でうろうろすることになった。

集合時刻の15:30になってもお呼びがかからない。何人かの人が出入りするのだが全然気に留められていないようだ。結局30分くらい待って、やっと中に入れてもらう。ホールロビーに入る時に「お土産」としてポスターを手渡されて(もちろん教授の直筆サイン入り!)、とりあえずロビーで待つように言われる。ここでも10分くらい待っていたか?その後1階のホール入り口に案内されるが、ここでも待たされる。最初は曲が弾かれているのが聞こえていたのだが、そのうちに単音しか聞こえなくなる。そういう状況の中でやっとホールに入る。案内してくれた人の説明によるとモニターがトラブっているようでサウンドチェックをやっている最中だとのこと。(あとで関係者に聞いた話によると、ピアノに取り付けたMIDIプレーヤーの取り付け方が不完全だったためにモニターからの出音で共振していたらしい。結局、これを取り外して床に直に置いて解決したらしい。)

その後は怒濤のリハーサル。教授はほとんど間を置かずに次から次へと曲を弾いていた。基本的には流して、ところどころ納得いかないパッセージは何回か繰り返して確認しているようだった。

教授がふと演奏を止めて、アシスタントの人に何か耳打ちをする。アシスタントの人が、それを我々を案内してくれた人に伝えに来る。どうやら一通りリハーサルが終わったので、我々をステージの上に乗せてくれるらしい。ステージは土足厳禁とのことなので、ステージ最前列で靴を脱ぎ、ステージに上がる。当選した10名がピアノを取り囲むように並んで、その中で教授が《戦メリ》を(さわりだけだけど)弾いてくれた。もう茫然。ほとんどフラフラの状態で退場する。

そのあと、落選した(笑)同行者2名と落ち合い、ちょっと早く夕食へ。

あらためて入場。CD付きのパンフレットは同行者全員買ったが、commmonsのテープがすてきだったので、なぜかこれも全員購入。

(セットリストは省略。iTMSで確認してください。)

しかし、最前列で聞くとこうも感動するものか。我々の後ろには1600人あまりのお客さんが座っていたのであるが、視界に入るのは教授だけ。教授が口ずさむ《Behind the Mask》も聞こえるし、教授がリズムを取る足踏みも聞こえるのである。それぞれの曲を弾く細かい表情も見える。MCも何となく我々に話しかけているような気がする(笑)。

ちなみにこのへんの席↓から見ていました。

img_0121

意外に印象に残ったのが《Put your hands up》。教授もMCで言っていたが、前半は単調の曲が多かったので、この曲の明るさがいっそう際立ったのかも知れない。

帰りは車の中で久しぶりに「未来派野郎」とか「音楽図鑑」を聞いて盛り上がった。

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バンド維新2009

2009年3月1日(日)14:00 アクトシティ浜松中ホール

(わかりにくいたとえかも知れませんが …)昨年のバンド維新に比べると、各作品が持つベクトルの大きさは小さくなったが、向きは多様になった、という感がある。にも書いたように(いい意味でも悪い意味でも)サプライズはなかったが、ウィンドアンサンブルという枠組みの中でのいろいろな試みが、「現場」をちゃんと意識した作品として結実したように思う。

当日、外山雄三さんのお話の中で「投げかけ」という言葉が使われた。それぞれの作曲家が「中学生や高校生が演奏する」ということをちゃんと考えた上で作品を投げかけている。当日の各作曲家のお話から、そのような真摯さや、親が子をみるような演奏者に対する暖かい視線が感じられた。

演奏について。邪知あるいは勝手な想像だが、今回静岡県外の中学校/高校が参加することになったのは、日程上(特にこの時期は高校の卒業式シーズンである)本来参加すべき団体が参加できなくなったがゆえの苦肉の策だったのではないかと思う。(だって、今でもホームページには「浜松市内中・高校吹奏楽部」と書かれているもんね。)

そんなわけで、今年はちょっと入場料が高いと感じる演奏だった。

この演奏会に臨んだ演奏者のモチベーションはいかがなものだったのだろうか?全曲が初演だし、作曲者も当然直接指導に来るだろうし、プレッシャーも大変なものだと思うが、「作品があるべき姿」を作ろうとするがゆえにこぎれいにまとまりすぎているような演奏もあった。「模範的な演奏」はこのあとCDで出るのだから(ちなみに4月リリースだそうです)、もう少し自分たちの色を出した方がいいのでは?(まあ、自分がその立場になったらそんなことできないかも知れないけど)

詳細は後ほど。

外山雄三/新しい行進曲

  • 浜松市南部中学校

50年以上も前に作ったピアノ曲がもとになっているらしい。オーソドックスなスタイルに、ちょっとひねりを加えたメロディなど、いかにも「習作」という感じの作品だが、作曲者本人が言っていたように「シンプルに作るのは難しい」のだろう。あえてそういうスタイルを狙ったのか?

マーチングスタイルの立奏だった。(じゃあ、前日のリハーサルも同じスタイルでやればよかったのに。)

前田憲男/LET’S SWING

  • 静岡県立浜名高等学校

正統的なビッグバンドスタイルの作品。吹奏楽のいわゆる「ポップス」に比べると、伴奏のリズム形とかメロディの節回しとかが、自然にグルーヴが出るように書かれているのかな、と思う。こういう作品は「吹奏楽作曲家」には書けないのだろう。

このノリを出すのはかなり難しいと思うのだが、演奏は健闘していたと思う。

片岡俊治/Memento mori ~for Wind Ensemble~

  • 東海大学付属高輪台高等学校

今回の公募入選作品。冒頭鳴らされる電子ピアノの和音が全曲を支配しているらしいが複雑すぎてよくわからなかった。その後のテンポが速くなった部分は、スコアで見ると声部の構成はすっきりしているのだが、響きはくぐもっている。もうちょっと演奏を整理すればすっきり聞こえそうな気もするのだが。(わずか5小節しかない)中間部の和音が印象的。冒頭の電子ピアノを聴いたときにも思ったのだが、メシアンを思い出す。

新実徳英/Ave Maria

  • 浜松市立与進中学校/ジュニアクワイア浜松

合唱を伴った作品。全体的には古典的な宗教曲の趣であるが、和声が面白い。もうちょっとテンションがきれいに響けばよかったかな。

渡辺俊幸/Music for V.Drums and Small Wind Ensemble

  • 静岡県立気賀高等学校

「冒頭の曲想のテーマはヒーローなんです。」という説明があったときに、《HERO》のテーマが頭に浮かんだのだが、あちらは服部隆之さんでしたか。でも、雰囲気は似ているような気がする。

丹生ナオミ/青竜舞(せいりょうのまい)

  • 浜松学芸中学校・高等学校

いちばん「吹奏楽っぽい」作品だったかも。いわゆるA-B-A形式。荒々しいAの部分と、それとは対照的なBの部分になっていて、曲想も旋律もわかりやすい。全体的にどことなく日本的な雰囲気がある。

時々現われる不均一な部分(例えば3/4拍子のオスティナートが1拍追加されて4/4になってしまうところとか、1小節単位のリズムが2小節になる部分とか)を強調すると、もう少し面白かったかも。中間部のクラリネットソロは素晴らしかった。

野平一郎/Le temps tissé III pour ensemble d’harmonie

  • 浜松海の星高等学校

今回いちばん期待していた作品。やはり浜松海の星高校の完成度は抜きん出ている。

ただ、昨年の《秘儀I》(西村朗)のようにぐいぐい推進していくような作品ではないので、かなりの緊張感が要求される。その緊張感を管楽器で演奏するのは(特に高校生では)不可能であるように思えるし、そもそもそれだけの緊張感を管楽器で演奏する必要があるのか、とも思う。

北爪道夫/空の上の散歩道

  • 名古屋市立新郊中学校

昨年同様、もっとも手応えのある作品の後は「帰る前に頭を正常に戻してもらうために」(北爪道夫さん談)北爪さんの作品が演奏された。

昨年の《並びゆく友》同様スコアはシンプルなのであるが、パート間のポリリズミックな掛け合いが難しそう。ときおり、管弦楽のための《映照》や吹奏楽のための《風の国》を思わせる多層的な響きが聞こえる。

来年度の公募作品募集も告知されていたので、来年も開催される模様である(よかった、よかった)。まとめ役である北爪さん以外の作曲家は重複しないようにしているのだろうか?だとすれば、また来年も楽しみが増えそうだ。

あと、昨年同様、会場でフルスコアが売られていた。昨年は簡易製本で2000円くらいだったと思うのだが、今年は最初からちゃんとした製本で4000円だった。これだと高校生は買わない(買えない)と思うので、もうちょっとがんばっていただけると。

あと、出演団体が揃わないんだったら、うち出ますよ、社会人バンドだけど(笑)。