日別アーカイブ: 2012 年 11 月 13 日

完結

楽劇《神々の黄昏》第3幕を見る。これでメトロポリタン歌劇場の新しい《ニーベルンクの指環》も最後まで到達ということになる。

4時間30分のオペラを約1分にまとめた(笑)トレーラーはこちら。

まず主役の2人がよかった。すなわちデボラ・ヴォイトが演じるブリュンヒルデの「姉御」っぷり、ジェイ・ハンター・モリスが演じるジークフリートの天真爛漫さというか、「何も考えていなさそう」な雰囲気というか、が個人的にしっくりときた。

それに比べると悪役たち(ハーゲン、グンター、グートルーネ)の毒が少なかったのがいまいち。ハーゲン役のハンス=ペーター・ケーニヒは《ヴァルキューレ》でも敵役であるフンディンクを演じていたのであるが、へたに気品があるのであまり憎まれ役には向いていないのかも知れない。

しかし、歌手としての全体的なラインアップはいわゆる「ヴァレンシア・リング」よりは格段に上。また、《ジークフリート》と《神々の黄昏》はレヴァインではなくファビオ・ルイージに替わっているのであるが、予想通りかなり堅実な音楽を作っていた。レヴァインに比べると派手さがないのだが、まあもともとこういうキャラクターの音楽を作る人だし。

あらためて思ったのだが、ワーグナーの意図に忠実な演出となるとどうしても最終場面に無理があると思った。最終場面は「ジークフリートの亡骸を包む炎にブリュンヒルデとその愛馬グラーネが飛び込む」 → 「ライン河畔にあるギービヒ家が崩れ、ブリュンヒルデが持っていた指環は無事ラインの乙女たちのもとに戻る(ハーゲンは指環を追いかけて行って溺れてしまう)」 → 「そして神々の住むヴァルハラが崩壊する」という流れになっている。これをそのままシーケンスとしてつなぐとどうしても不自然になるし、ヴァルハラの崩壊は突然規模の大きな話になるのでそれまでの流れに比べてどうしても安っぽく感じてしまうことになる。

全般的には違和感なく見てくることができたのだが、最後の最後で原作に忠実であるがゆえの不自然さを感じてしまった。というわけで最終部分だけ「ヴァレンシア・リング」を見直した。上記の全てのエピソードを強引に一つの舞台で見せているのであるが、これはこれでヴィジュアルなインパクトがあるのでとても好きな場面なのである。

しかし、この「新メト・リング」(もう愛称はあるんですかね?草津の湯もみ板リング?)を見たあとで「ヴァレンシア・リング」を見ると、その衣装やメイクの奇天烈さに笑ってしまう。

カーテンコール。「ヴァレンシア・リング」ではオーケストラの演奏者も全員ステージに上がってカーテンコールを受けるのがかっこよかったのであるが、「新メト・リング」では最後のカーテンコールが終わったあとのカーテン裏の歌手たちの表情がとらえられているのがよかった。

しかし《指環》全曲が綺麗な画質で安く見られるようになったのはいいことですなあ。「新メト・リング」のセットは100ユーロ弱だから日本円で10000円しないくらい。私が初めて買った《指環》全曲はサバリッシュ指揮のバイエルン国立歌劇場のレーザーディスクで当時は80000円した。