月別アーカイブ: 2000年3月

第12回全日本高等学校選抜吹奏楽大会

2000年3月26日(日) 10:00 アクトシティ浜松大ホール

寝坊とか、ランチタイムとかで全ての団体を聞くことができませんでした(_0_)。正直言って、曲目を見た時は変わり映えのしないレパートリーであまり期待していなかったのですが、演奏の「上手」「下手」に関係なく感動できるバンドが多かったです。(いやあ、やっぱり若いっていいですね(笑)。)

狭山ヶ丘高等学校(埼玉)

  • クロード・T・スミス/華麗なる舞曲
  • マイ・フェイバリット・シングス(私のお気に入り)

まとまりのある演奏だったけど、反面、もっと羽目を外してもらっても面白かったと思う。《華麗なる舞曲》をノーカットで演奏してもらったのはうれしかったけど、この曲を聞かせるにはもっと精度の高いアンサンブルが必要かな。ちゃんと「演奏を聞かせられるバンド」なんだから《マイ・フェイバリット・シングス》の踊りは要らなかったかも。

福井県立武生東高等学校(福井)

  • モーリス・ラヴェル(天野正道)/ラ・ヴァルス
  • That’s the Way of the World
  • That’s the Way (I like it)

《ラ・ヴァルス》も吹奏楽だと聞かせるのは大変な曲。ストレートな演奏なんだけど、もう少し艶めかしさがあった方がよかったかな。

ポップスでのステップのかっこよさは相変わらず。《That’s the Way (I like it)》でメロディを割り当てた楽器がホルン、ユーフォニアム、フリューゲルホルン、トロンボーン、バスーン、テナーサックスのユニゾン、そのあとのソロがフルートとバスクラリネットのユニゾンというアイデアにセンスを感じます。

福岡工業大学附属高等学校(福岡)

  • フランツ・フォン・スッペ(三戸知章)/「軽騎兵」序曲
  • ステファン・ブラ/ハイ・フライト
  • 合唱(曲名何だっけ?)
  • エル・クンバンチェロ
  • ムーン・リバー

まさに「高校選抜大会における傾向と対策」を完璧に遂行した構成。クラシックの編曲あり、トランペットをフィーチャーした曲あり、合唱あり、ビッグバンド風の演奏あり。MALTAの講評じゃないけど「もう少し下手でもいいのに」と感じるくらい完璧な演奏。それだけに堅苦しさというか息が詰まりそうな雰囲気もある。金管の鳴りは快感。トランペットのトップの女の子はブラヴォー!

北海道旭川商業高等学校(北海道)

  • グリエール(林紀人)/バレエ音楽「青銅の騎士」より
  • バーバー(カルヴィン・カスター)/アニュス・デイ(弦楽のためのアダージョ)
  • マイ・フェイバリット・シングス
  • エル・クンバンチェロ

下手に踊りを入れなくても音楽だけでエンターテインメントを感じさせてくれた演奏。《アニュス・デイ》の合唱の音程が終始不安定だったのが残念(特に男声)。マイ・フェイバリット・シングスは基本的にサックス四重奏+コントラバス+ドラムという編成。サックス四重奏で始まったところにコントラバスを持って行って演奏に加わるという演出がかっこよかった。《エル・クンバンチェロ》は真ん中にマレット・パーカッション(シロフォン・ヴィブラフォン・マリンバ)による《ティコ・ティコ》をフィーチャーした構成。何をするのかと思ったら、途中から目隠しをして《ティコ・ティコ》を演奏。「見せる」という意味では面白い演出でした。《アニュス・デイ》がもうちょっとよければ、(私が聞いた中では)文句なくナンバーワンでした。

淀川工業高等学校(大阪)

  • 行進曲「立派な青年」
  • 幻想曲「シルクロード」
  • ヒットパレード2000

「偉大なるワンパターン」なんですが(笑)、毎年入れ替わる生徒を相手に同じことを続けていくという難しさ、大変さもあるのではないでしょうか。ヒットパレードのラストは、おなじみ「We are the World」。知っている人は知っていると思いますが、一階席のお客さんは生徒が配った蛍光ミニスティック(正式名称は何ていうんでしょう、あれ?)を曲に合わせて振ります。これに合わせるようにバルコニー席のお客さんが携帯電話の照明をつけて振っているのを見てちょっと感動。

金光学園中学高等学校(岡山)

  • 音楽物語「窓ぎわのトットちゃん」より

このバンドの演奏は初めて聞きましたが、素直に感動しました。コンクールに出ていないそうですが、ともするとコンクールバンドが陥ってしまう「おしつけがましいサウンド」でなく、聞き手を惹きつけることができるデリケートな表現が感じられました。バンドの演奏もさることながら、ストーリーを進めるナレーションの女の子も素晴らしかったです。

第4回浜松吹奏楽大会親善交流コンサート

2000年3月25日(土) 15:00 アクトシティ浜松中ホール

伊藤康英さんひさびさの新曲がハワイのミリラニ高等学校によって初演された。 (吹奏楽のために書き下ろされた曲(既存の曲からの編曲や、自作の他編成への編曲を除く)としては、1998年の交響三頌《ラ・ヴィータ》以来ですかね?)

吹奏楽のための交響詩《ゴー・フォー・ブローク》
Symphonic Poem for Band “Go for Broke”

 

第二次大戦下のハワイの日系人部隊(アメリカ合衆国陸軍100大隊と442部隊)に捧げられた曲。 「ゴー・フォー・ブローク」とは「当たって砕けろ」とか「死ぬ気で頑張り通せ」という意味らしいが、英語のニュアンスとしては「がんばろうじゃないか」といった明るい意味合いを持っているらしい。

演奏時間は6分半ほど、構成は《ぐるりよざ》の第1楽章をコンパクトにして、《交響的典礼》の導入部とコーダをつけたような感じです。 また、委嘱団体が総勢120名という大所帯だったため、フルートが3パートに分かれているとか、康英さんの曲としては珍しくトランペット・パートとコルネット・パートが独立しているとかという編成上の特徴もあります。

曲は、まず前述したようなハイテンションの導入部で始まり、静かになったところでクラリネットの低音域による旋律が現れます。 これが康英さんが「君が代は千代に八千代に…」の歌詞にメロディをつけた歌曲《君が代は。》の旋律です。

これが何回かの変奏で盛り上がったあと、テンポが上がって突撃ラッパ風の音形が出てきます。 この部分も、この音形を繰り返しながら楽器が加わっていって混沌を極めていきます。 ここではサイレンを使っているのが特徴的ですね。 康英さんは消防署のサイレン(山形大学が《イーストコーストの風景》で使ったようなやつ)を想定していたらしいのですが、結局入手することができなかったそうで、本番ではアメリカン・パトカーのサイレンのような音が使われていました。 ここの部分は息の長い allargando で、だんだんテンポを落としながら力強くクライマックスを作っていきます(オネゲルの《パシフィック231》で機関車が止まる場面のような感じ)。裏拍で叩かれるバスドラムが気持ちいいです。

個人的には、この部分を初めて聞いたときに、少し諧謔的なニュアンスからショスタコーヴィチの作品に近い印象を持った(ショスタコーヴィチは《交響 曲第2番》でサイレンを使っているし)のですが、リハーサルの後で康英さんとお話ししたときには「《ピータールー》みたいでしょ?」と言われてしまいまし た。こちらの方が的確な描写かもしれません(笑)。

このあとは、(《ピータールー》のように(笑)静かな)オーボエのソロから、前半部の《君が代は。》の旋律が回想されます。オーボエのソロはちょっと音域が高くて大変かも。本番ではフルートを重ねていました。

初演は、アクトシティ浜松中ホールという残響の多い室内楽用ホールで、120人もの人数で演奏したものですから細かいところが聞き取りにくかったのがちょっと残念です。 40〜50人くらいのバンドでも十分演奏可能だと思いますので、すっきりした編成でどこかの(できれば上手い(笑))バンドが再演してくれることを期待します。 技術的/体力的にもそれほと無理はないと思いますし、内容としてもわかりやすいし、かなり親しみやすい作品ではないかと思います。