日別アーカイブ: 2010 年 6 月 21 日

演奏会その42:ハンブルク・フィル第10回

さて、今シーズンのハンブルク・フィルの定期公演も最終回となってしまいました。どこのオーケストラもそうですが、7月と8月は夏休みに入り、9月からまた新しいシーズンが始まります。

10. Philharmonisches Konzert / Drums and Dreams

Martin Grubinger, Manuel Hofstätter Schlagwerk
Dirigent Pietari Inkinen

Dmitri Schostakowitsch: Festouverture op. 96
Avner Dorman: “Spices, Perfumes, Toxins!” für Percussion-Duo und Orchester
Nikolai Rimski-Korsakow: Scheherazade / Suite symphonique op. 35

(おそらく吹奏楽編成の方が原曲の管弦楽編成よりもずっと演奏回数が多いであろう)ショスタコーヴィチの《祝典序曲》、イスラエル生まれの35歳の作曲家アヴナー・ドーマンの作品で2人の打楽器奏者をフィーチャーした《スパイス、香料、毒!》、それからリムスキー=コルサコフの交響組曲《シェエラザード》というプログラムです。全般的な印象としては、ドーマンの作品に時間をかけたのか、ショスタコーヴィチとリムスキー=コルサコフはあまり練られていない演奏でした。

ドーマンの打楽器協奏曲は、タイトルから想像するに難解な現代曲を想像していたのですが、とてもわかりやすくて楽しめました。明確な調性感、少しミニマルっぽい雰囲気もある鍵盤打楽器のパルスによるオスティナート、といった作風は吉松隆さんの初期の作品(というか最近の作品はちゃんと聞いていないのでコメントできませんが …)を彷彿させます。曲は急―緩-急の3楽章構成、第1楽章はアラブというか中東のスケールが使われており、2人の奏者が変拍子の中でシロフォンとマリンバ、それからドラムセットを演奏します。第1楽章は以下の作曲者のホームページで聞けます。

http://dormanavner.com/music/orchestra/spices.php

第2楽章はロドリーゴの《アランフェス協奏曲》のような雰囲気で、これはヴィブラフォンとマリンバが活躍します。第3楽章はドラム中心の激しい楽章。席のせいか、2人のソリストの音にかき消されてバックのオーケストラはほとんど聞こえませんでした。ちょっと残念。

打楽器奏者が2人いるのですが、2人の掛け合いよりはユニゾンに力点が置かれているように思いました。細かいドラムセットのパターンでときおり「おかず」に入るシンバルなどが2人でピッタリ合うとかっこよいです。

アンコールでは、それぞれにスネアドラムでの妙技を披露。石川直さんとかがよくやるやつですね。ロールをやりながらスティックを放り投げたり、片方の手を背中から回してロールをしたり。アンコール2曲目では一転して鍵盤打楽器のデュオによる《ペール・ギュント》から《オーゼの死》(だっけ?)。鍵盤打楽器のロールで「ここまでできるか」というくらいの最弱音で演奏していました。すごい。

で、後半。実は《シェエラザード》はあまり好きな曲ではないのです。各楽章で登場する旋律は確かにどれも美しいのですが、ただそれだけかな、という気がします。それらの旋律の展開の仕方が優等生的というか、聞いてて飽きてきてしまうというか。それならそれで、毎夜繰り返されるおとぎ話のように、全編を通してたゆたうような流れを作るというアプローチもありかな、と考えていたのですが …

やはり繰り返されるそれぞれの楽想がうまくつながらないと、音楽がぶつ切りになってしまいます。特に第2楽章はいろいろな楽器がソロをとるわけなのですが、それぞれのソロのメロディの奏で方はもう少し統一させた方がよかったのではないかと思いました。あとで現れるトゥッティも含めて同じ旋律が現れるたびに違う表情を見せてしまうと、ちぐはぐな印象がぬぐえません。

全編のカギを握るヴァイオリンのソロも全般的にせわしなかった(もっと落ち着いて優雅に弾いて欲しい)のと、若干のピッチの不安定さがあったのが惜しかったです。