前日寝たのは午前3時くらい(前日じゃねえな、当日だな)なのだが、律儀に午前8時に目が覚めてしまう。さすがにもう少し体を休めたいので、洗濯を仕込んでもう少し寝る。
今日は、まず予約した演奏会のチケット(今日の分も含めて)を引き取りに行って、そのついでにいくつか買い物、いったんアパートに戻ってきて、あらためて演奏会に出かける、という計画にした。まずはハンブルク歌劇場のチケットオフィスに行こうと思うのだが、やはりHasselbrookとBerliner Torの間のS1(Sバーンの1号線)は動いていないようなので、この間は連絡バスに乗る。Berliner Torからハンブルク歌劇場最寄りのGänsemarktまでは乗り換えなしに行ける。
ということでハンブルク歌劇場。グスタフ・マーラーが一時ハンブルク歌劇場の音楽監督として在任していたらしく(そうだったっけ?)、正面の壁にレリーフが飾ってあった。チケットオフィスは左手の奥にある。窓口によるとオンラインのチケットサービスが故障して動いていないらしくチケットの発券ができなくなっているとのこと。「今日の分はすでに発券されているかも知れない」ということで探してみてもらうが、やはりまだのようで「開演前にライスハレのチケット売り場に行ってくれ」とのこと。ううん、何しに来たんだか。演奏会案内とか機関誌をもらって帰る。
そのあとはOCSハンブルクに行ってみる。日本の商品をいろいろ売っているところである。ここで土曜日に日本風のパンを売っている(デュッセルドルフから持ってくる)ということを教えてもらったのでちょっと買ってみようと思ったのである。そのあとはデパート「カールシュタット」に。一泊旅行に使えるくらいの大きさのカバンを買う。やはり秋冬は昼の時間が極端に短くなるのでちょっとした観光には適さない。日が長い時期のうちに近場(一泊旅行圏内)の観光地は回っておこうかなと思ったわけである。以前、アメリカ駐在中の友人とメールをやり取りした時に言われたのであるが、やはりヨーロッパでは日が長い時期はアウトドアに出かけ、長い冬はインドアの演奏会とかを楽しむのではないかと。そういうわけで、これからの季節はちょっとおでかけした方がいいのかも知れない。とりあえずケルンに行ってみたいと思っているのだが。
で、いったん出直して演奏会。今日の演奏会は通常のコンサートホールであるライスハレであるが、ここも最寄り駅はGänsemarktである。少しだけお腹に入れておこうと思うがライスハレ周辺にはあまり選択肢がない。土曜日なのでそもそも空いている店が少ないのかも知れないが。ライスハレの向かいにあるイタリア料理店に入る。とりあえずお酒はやめておいてアプフェルショーレ、それからラビオリのレモンソースを頼む。お店のロケーション上、多少高めなのはしょうがないか。味はなかなかよい。(ハンブルクのイタリア料理店の多くはあらかじめ麺を茹でてあるらしいので、そういうところに比べれば …)
実はライスハレの前で簡単な食べ物や飲み物が売られていることにあとで気がついた。次回からはこれでいいや。チケットはかなりギリギリで入手できたが、あわてて別の席に座ってしまい、怒られる。
今日の演奏会は「黄金の20世紀」と題されたハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の特別演奏会。20世紀前半に作曲された作品のうち、ジャズとか映画音楽とかに関連のある作品を集めた演奏会である。かなりリラックスした雰囲気で、鮮やかな色のドレスを着ている女性奏者もいるし、黒シャツに赤い蝶ネクタイという男性奏者もいる。音楽監督のシモーネ・ヤングはノースリーブでほとんど背中丸出しといういでたちで棒を振る。
- フリートリヒ・ホレンダー/映画「嘆きの天使」のメロディによるマレーネ・ディートリヒ・メドレー
- フランシス・プーランク/管弦楽組曲《牝鹿》より〈アダージェット〉、〈ラグ―マズルカ〉
- ジョージ・アンタイル/ジャズ・シンフォニー
- ベルトルト・ゴルトシュミット/管弦楽組曲より〈シャコンヌ〉、〈タランテラ〉
- ドミトリ・ショスタコーヴィチ/バレエ音楽《ボルト》より〈官僚の踊り〉、〈荷馬車引きの踊り〉
- ボフスラフ・マルティヌー/ジャズ
- ダリウス・ミヨー/屋根の上の牡牛
- アルテュール・オネゲル/夏の牧歌
- クルト・ヴァイル(モートン・グールド編曲)/ベルリン組曲(〈マック・ザ・ナイフ〉、〈スラバヤ・ジョニー〉、〈ビルバオ・ソング〉)
- ジョージ・ガーシュウィン/3つの前奏曲より第2番、第1番
アンコール
- スコット・ジョプリン/メイプルリーフ・ラグ
- マルティヌー/ジャズ
- (不明)
シモーネ・ヤングについては名前は知っていたがその演奏は聴いたことがなかった。正直、女性指揮者ということで多少の先入観があったことは確かなのだが、そんな先入観がまったく無意味だったと思わせるくらい私好みだった。全体的にはかなり手堅くまとめているのだが、大胆に歌わせるところと、きっちりリズムを刻ませるところのコントラストが明確だし、その指示も的確、また無理にオーケストラをドライブせずに、自然に生まれる流れを大切にしているような感じである。
ちょっと調べてみたら、アンタイルの《ジャズ・シンフォニー》は前任指揮者インゴ・メッツマッハーがやっていた「Who is afraid of 20th century music?」で取り上げられていた。全般的には第1部の方がにぎやかな作品が多くて面白かった。個人的に面白かったのはゴルトシュミットの管弦楽組曲。ヘンテコなリズム・オスティナートに乗っかった作風が映画「サイコ」のサウンドトラックを彷彿とさせる。ヴァイルの作品はグールドの編曲によってちょっと毒がなくなってしまったかな。マルティヌーのジャズという作品は初めて聞いたのだが、演奏者による歌などが入っていて面白い演出。ミヨーの《屋根の上の牡牛》も初めて聞いたかな、サンバのリズムの鮮やかな部分を中心とするロンド形式(?)、あるいはこの部分とミヨー得意の複調旋律が登場する抒情的な部分が交代で出てくるような構成。
演奏会はシモーネ・ヤング自身の解説をはさんで進められるのだが当然ドイツ語。ときおりお客さんの笑いを取っているのだが、何を言っているのか全然わからないのがちょっと悔しい。アンコール一曲目ではメイプルリーフはカナダの国旗に描かれていますうんぬんかんぬん、ピッコロ奏者がカナダ出身でうんぬんかんぬんと言っていた(推測)。ピッコロ奏者がおもむろにカナダ国旗を取り出して譜面台に貼り付けて演奏スタート。そういえば「カナダ人のバッグパッカーはバッグに国旗をつけているのですぐわかる」というジョークを思い出す。
何よりもこの演奏会でよかったのは、指揮者と演奏者と聴衆の結びつきのようなものを感じられた点である。この演奏会はシーズン(2008年〜2009年シーズン)の定期演奏会を全て終えたあとでの特別演奏会、いわば「シーズン最終戦のあとのファン感謝デー」のような位置付けなのである。指揮者はコンサートマスターをはじめとする演奏者をねぎらい、演奏者は指揮者をねぎらい(当然団員から花束が送られた)、聴衆は指揮者と演奏者におしみない拍手を送る(ちなみにシモーネ・ヤングはオーストラリア出身なのでオーストラリアの国旗を振っているお客さんもいた)、といった構図に、このオーケストラがこの街(つまりこの街の人たち)に根付いていることを感じる。東京や大阪だとこういう感慨を感じることができるのかなあ?浜松では100年かかってもできない気がするが。